学びて時にこれを習う(3) 江戸時代の学問観と学習法

前回まで (1) (2) 荻生徂徠が博学を尊び、彼の学問観にいたってようやく文献研究として<スタディ>が自立してくる、と書いたが、もう少し調べてみると、そう単純な話ではなく、ちょっと違うかもしれない、慎重に考えた方がいいとも思えてきた。 文献…

学びて時にこれを習う(2) 文献研究<スタディ>の成立

(1)の続きです。 近世・近代の「実学」についてのイメージとは別の切り口でも少し考えてみたい。 何故か生き生きと「学問」している人々を描く小説 最近読んだ冲方丁の歴史小説群は、『光圀伝』にせよ、あるいは『天地明察』にしてもそうだが、なんだか実…

学びて時にこれを習う(1) 「実学」の「伝統」に関する覚書

このところ「学問」とは何であるかについてぼんやりと考えている。 図書館に就職してよりこの方、多くの「学問論」を目にしたし、また色々な人から学問観を聴く機会を得た。これは職業柄のせいかもしれないが、ある意味では、他の人よりも多く学問論に接して…

戦前期における出版法規と納本制度(図書編)

「検閲」問題が今熱いのかどうかは知らないが、 私が出版史を意識するようになった図書館就職後以降だけ見ても、 「検閲」の本は最近結構出ている。 検閲と文学--1920年代の攻防 (河出ブックス) 作者: 紅野謙介 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2009/…

メディア・図書館・情報資源

前に「図書館史の勉強をはじめた理由」というエントリを書いたときにもちょっと意識していたのだが、図書館法が改正されて、司書課程に関する講義が再編されるにあたって、最近図書館資料を「メディア」と言い換える事例が多いのが少し気になっている。 メデ…

国民国家・ナショナリズム・図書館

先日出席した勉強会で、とある友人から 「国民国家を構成する図書館、という視点に対し、図書館屋はあんまりにも無自覚すぎるんじゃないか?」 ということを言われた。それを聞いて、「そうだなあ」と思ったのだが、勉強会全体の議論が明後日の方向に行って…

日本史研究と文房具

ノウハウは公開してもまったく問題はない。なぜなら、大変なのは「実行する」ことだから。アイデアは「モノ」にしなければならない。設計がいる。材料がいる。 (山崎将志『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社、2010)p.76) 残念な人の思考法(日経プレ…

日本史研究とWebサービス

ええと・・・。 あからさまに「らしくない」、そんな大仰な題をつけたので慌てて弁解しておきたいのだが、今回の題は、私が日頃使っているWebサービスを、もう少し効率的に動かしたいというモチベーションによるもので、要は、手元のカードを切ってみて、「…

図書館史の勉強をはじめた理由

最近、図書館史を専門にしているわけではない友人たちが、続々と図書館史関係の優れた発表をしていて、焦っている。 図書館系勉強会KLC 「図書館史を勉強したい!教科書分析編」(発表者:min2flyさん) 図書館研究所あるいは「図書館の頭脳を持ちたいと…

江上敏哲『本棚の中のニッポン』読書メモ

本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究 作者: 江上敏哲 出版社/メーカー: 笠間書院 発売日: 2012/06/01 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 183回 この商品を含むブログを見る 日本人の知らない「海外の日本図書館」。そこはどういうところで、…

新聞記事による帝国図書館探訪

先日、連休を利用して図書館で古い新聞記事を漁っていたら、大変変わったものが見つかった。いくつかの図書館史の文献をみるとたまに引用されているようなので、別段珍しいものでもないのだろうが、ブログにあげて紹介してみる。 記事は履霜生という人の「帝…

『中国化する日本』を持ってビブリオバトルに行ってきました。

ビブリオバトル、というものをご存じだろうか。 5分間で口頭で書評して、参加者が一番読みたくなった本を競い合う 勉強会とエンターテインメントの中間形態のような場である。 2007年頃から、京都を中心に関西圏ではじまり、 一昨年あたりから図書館系のイベ…

雑誌の歴史を調べてみる(2) 木村毅の「日本雑誌発達史」

前回のエントリで取り上げた、 木村毅 著. 現代ジャアナリズム研究. 公人書房, 昭和8. 376p に収録されている「日本雑誌発達史」にどれだけのことが書いてあるか、まとめておきたい。 雑誌の歴史の枠組みについて一定の参考になりそうだからである。 まずざ…

雑誌の歴史を調べてみる(1)

少し調べたいことがあって、岩波書店『文学』のかなり古い号を繰っていたら、こういう特集があった。 猪野 謙二. 他. 文学雑誌をめぐって(座談会). 文学 / 岩波書店 [編]. 23(1) 1955.01. ISSN 0389-4029 岩波書店は1950年代から、『文学』で、毎月一冊ずつ…

『歴史学および日本文学研究者に対する実態調査からみる人文科学系研究者の情報行動』を読んだ。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。 さて、昨日、素晴らしい報告書を発見してしまい、小躍りして人に紹介しまくっていたのですが、ただ紹介するだけでなく、どの部分に感銘を受けたかについて、少し紹介させていただきたいと思います。 ここから、いつ…

和田敦彦『越境する書物』読書メモ

前置き 久しぶりにブログを書いてみる。 最近読んで感銘を受けた本ということで、こちらの読書メモを。 越境する書物―変容する読書環境のなかで 作者: 和田敦彦 出版社/メーカー: 新曜社 発売日: 2011/08/03 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 52回 この…

電子書籍についての一夜漬的感想

先日、某所で研修を受講したところ、修了要件として電子書籍が普及すると図書館ではどういう課題が出てくるか2000字で述べなさい、という課題を出された。電子書籍の話題は、いままでずっとスルーして来たのだけれど、しかし2010年のいわゆる「電子書籍元年…

山梨あや『近代日本における読書と社会教育』読書メモ

近代日本における読書と社会教育 作者: 山梨 あや 出版社/メーカー: 法政大学出版局 発売日: 2011/02/21 メディア: 単行本 クリック: 20回 この商品を含むブログ (2件) を見る 書評が出来るほどの身分ではなし、またその能力も全然ないのだが*1、読んでおか…

「新書」と「教養」

末端の事務屋とはいえ、図書館の禄をはむものとして、出版界の動向はいつも意識せざるをえないでいる。カウンターに出ていた頃は、「最近の司書は本のことを碌に知らん!」というお叱りを受けたこともあって、ただただ申し訳ない、と思いつつ、その日の帰り…

ある「あとがき」の話

歴史は何のために書くのか。この手の質問を人からされたら、私は嫌な顔を隠せとおせないだろう。ただ、昨日のエントリについてそういう疑問が生じたかもしれない…という懸念は、私のなかにもあって、やはり不十分な文章をパブリックな場にあげても傷つくのは…

高校日本史と大学の日本史研究のあいだ

またも同僚との会話で恐縮なのだが、「日本史を研究するって具体的にどういうことなんですか。もうあらかたのことはわかっちゃってるんじゃないですか、とくに最近のことは」ということをたまに言われる。 たぶん私だけでなく、歴史学を専攻していた人は、同…

歴史的資料を図書館に見に行く

以前同僚に昨日書いたような歴史的資料の話をしたら、その重要性はわかったんだけれど、じゃあどうやって探すんだ。ということを言われた。確かにそれはもっともな話である。 そもそも史料とは何か。これについては古典がいっぱいあるのだけれど、大学院に入…

人文系必読書をめぐる議論について・その4

まだこの話題で続ける気なのか、と自分でも思うものの、図書館の選書業務の参考になることを一切書いていなかったので、そちらの補足を。 なんだかこれまでのエントリといきなり矛盾するようだが、大学図書館の蔵書でどの図書館も持っている本は読んだ方が良…

人文系の情報特性についての更なる蛇足

大学図書館についてものを言える立場にないくせに、選書の参考になりそうなことをなどと甚だおこがましいことを書いて少し胸がチクチクするので、図書館情報学の分野での一つの見解としてとりあえずこの本の該当箇所を読んでみた。 図書館資料論・専門資料論…

人文系必読書をめぐる議論について・その3

正直に告白すると、私は本を読まない高校生だった。いや、中学生のころも小学生のころも、読まなかった。 そもそも高校2年の秋まで美大進学をかなり本気で考えていたので、活字の本などむしろ邪魔だくらいに思っていた。そんな人間が今図書館で働いているの…

人文系必読書をめぐる議論について・その2

すごく中途半端に話が終わってしまってすみませんでした。 以下の記事も、何か凄く言いわけの補足の蛇足じみているのですが、もしお付き合いいただけるなら、幸いです。 -------------------------------------------------------------- さて、人文系の必読…

人文系必読書をめぐる議論について

先日、友人と以下のようなやりとりがあった。 専攻の異なる人文系出身者が議論するときに、「必読」とされているような本について、これから参入する学生さんがどうやってそれを探すかという話だ。 そこで、主要な文献を探すにあたって 例えば大学図書館の所…