図書館史ノートその3 文字の発明、文字の記録

図書館に伝えられた様々な記録メディアが伝えるものの中核には「文字」の存在がある。 文字がなかったら今と同じようなコミュニケーションは考えられないし、複雑な思想や知識を伝達することも困難であったろう。 図書館で働いている私たちや、これから図書…

図書館史ノートその2 図書・図書館史の参考文献

順番が前後したが、図書・図書館史を学ぶために参考になるものを挙げておく。 司書課程のテキストとして、主なものには以下のものがある。なお、教科書の比較については第20回関西文脈の会における佐藤翔氏の発表内容「司書養成科目「図書・図書館史」を考え…

図書館史ノートその1 メディアの発展と図書館

これからしばらく、図書館の歴史について、ノートめいたことを書いていきたい。あとで直すための下書きのようなものなので、文章の乱れや議論の粗雑さはご容赦いただきたい。 図書・図書館史 (JLA図書館情報学テキストシリーズ 3-11) 作者: 小黒浩司 出版社/…

文庫と書籍館と図書館と―libraryはいつから「図書館」になったのか?

本記事執筆後、鈴木宏宗「明治10年代「図書館」は「書籍館」に何故取って代ったかー「図書」の語誌に見る意味変化と東京図書館における「館種」概念の芽生え―」金沢文圃閣編・刊『文献継承』第34号(2019年7月発行)が出た。「図書」というものと「書籍」と…

続・「図書館記念日」をめぐるあれこれ

人間だれしも誤りはあるものなので、間違った情報をうっかり人に伝えてしまうのは、ある意味では避けられない仕方ないことなのだが、大事なのは、間違いに気付いたときに、開き直らずに、それをちゃんと認めるということなのかなと思う。自分もやれといわれ…

「図書館記念日」をめぐるあれこれ

ある質問から 図書館史を勉強するようになって、図書館関係者から最も聞かれたことに次のような質問がある。 「4月2日は図書館記念日で、それは明治5年に書籍館が開設されたことに由来するらしいが、本当か?」 いろんな人がネットで調べて疑問に感じるらし…

John Palfrey. BiblioTech(『ネット時代の図書館戦略』)読書メモ

BiblioTech: Why Libraries Matter More Than Ever in the Age of Google 作者: John Palfrey 出版社/メーカー: Basic Books 発売日: 2015/05/05 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る ネット時代の図書館戦略 作者: ジョンポールフリー,John …

ピーター・バーク著・井山弘幸訳『知識の社会史2』読書メモ

知識の社会史2: 百科全書からウィキペディアまで 作者: ピーターバーク,Peter Burke,井山弘幸 出版社/メーカー: 新曜社 発売日: 2015/07/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る 「本書では、思想を語らないというわけではない―制度を理解す…

読書週間なのでお勧め本のプレゼンをする

Twitterで「#読書週間だからRTされた数だけお勧め本プレゼンする」というタグがあったのでやってみた。 結構主題がばらけたので、備忘のために、もう一回主題別にまとめなおしてみたら、自分の日ごろの関心が思いのほかくっきり出たので、関連で思い出した本…

柳与志夫『文化情報資源と図書館経営』読書メモ

文化情報資源と図書館経営: 新たな政策論をめざして 作者: 柳与志夫 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 2015/02/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る 日ごろお世話になっている柳さんから、以前お送りした本のお返しにということで、な…

ICT時代の日本史文献管理考

ちょっとした危機感 現在刊行中の『岩波講座日本歴史』は、一応毎回購入して一冊一冊読みながらノートをつけているのだが、つい先日、近現代のとくに新しい時代に入ってきた巻を読んでいたところ、結構強いショックを受けた。ちょっと専門の時代や主題がずれ…

牧義之『伏字の文化史』読書メモ

牧義之『伏字の文化史:検閲・文学・出版』(2014.12、森話社) 伏字の文化史―検閲・文学・出版 作者: 牧義之 出版社/メーカー: 森話社 発売日: 2014/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 伏字の文化史 検閲・文学・出版 [ 牧義之 ] ジャ…

敢えて読書史と読者史に思うことの断片いくつか

――和田敦彦『読書の歴史を問う―書物と読者の近代』読書メモ 読書の歴史を問う視点 和田敦彦著『読書の歴史を問う―書物と読者の近代』(2014年、笠間書院)を読んだ。 読書の歴史を問う: 書物と読者の近代 作者: 和田敦彦 出版社/メーカー: 笠間書院 発売日: …

レファレンス・サービスは自らの来歴を語りうるか

不遇のサービス? 図書館におけるレファレンス・サービスの真価が理解されていないという話がある。 図書館関係者の嘆きでよく聞く類の話題である。海外で資料調査してきた人だと、「すごいね向こうの図書館!レファレンスライブラリアンってのがいてさ、何…

「最近の図書館システムの基礎知識」を読んで考えたこと

最近の図書館システムの基礎知識 『専門図書館』264号(2014年3月)に掲載された林豊氏の「最近の図書館システムの基礎知識―リンクリゾルバ、ディスカバリーサービス、文献管理ツール」という記事を読んだ。 『専門図書館』の図書館システム特集に解説記事を…

日本史研究とiPad

本年もどうぞよろしくお願いいたします。 今年は正月休みも長く、例年より少し長めに帰省したりできたので、多少時間も出来、iPadを使いながら原稿を書くようなことを試みたところ、ふと、次のような疑問がわいてきた。 「自分は、iPadを買ってから1年が経過…

京都府立総合資料館開館50周年記念シンポジウム「総合資料館の50年と未来」 参加記(後篇)

(前回の続きです) 記録を読み返していて思うのですが、やはりすごいイベントでした。 また、下記でも前篇につき言及いただいたようです。ありがとうございます。 シンポジウム「総合資料館の50年と未来」に行ってきました・記録 -- egamiday 3 シンポジウ…

京都府立総合資料館開館50周年記念シンポジウム「総合資料館の50年と未来」 参加記(前篇)

京都に行ってきました。 実は2週間ぶりだったのですが、前回は日程がキツキツであまり市内も回れなかったところ、今回は夜行で行ったので、秋の京都を少しだけ堪能できました。 平安神宮周辺。岡崎から南禅寺方向を眺めて 五条大橋から鴨川風景 …こう書くと…

私のささやかな「人文学」

ところで「人文学」というのは結局何なのだろうか――と、この半年くらい(正確にはもうちょっと長い間)考えている。 「人文学」という言葉の由来については、私自身、過去に気になって語誌を辿ってみたことがあるのだが、1920年代には「人文学」は「地文学」…

楊暁捷・小松和彦・荒木浩編『デジタル人文学のすすめ』読書メモ

「デジタル人文学」という領域 このたび、勉誠出版から刊行されている『デジタル人文学のすすめ』という本をいただいた。 デジタル人文学のすすめ 作者: 楊暁捷,小松和彦,荒木浩 出版社/メーカー: 勉誠出版 発売日: 2013/08/01 メディア: 単行本(ソフトカバ…

辞書事典にしたしむの話2――佐滝剛弘『国史大辞典を予約した人々』読書メモ

(本記事は出たばかりの本のネタばれを含みますので、ご注意ください) 国史大辞典 何とも変わった本が出た。本書は、『国史大辞典』を予約した人々はだれか、ということをひたすら紹介し続けるという本である。 国史大辞典を予約した人々: 百年の星霜を経た…

辞書事典にしたしむの話

図書館におけるレファレンスってのは、何なんだろうとこの頃考えている。私がレファレンスの担当になって、ひと月ほど経った。 『夜明けの図書館』の葵ひなこさんなら、「Q.レファレンス・サービスって何」と聞かれたら、 「司書が利用者の調べもの、探しも…

三たび、<アーカイヴ>を思想する、その手前で。

highway61さんから、拙文へのコメントを頂戴いたしました。 「<アーカイヴ>を思想する、その手前で」を読んで - 本の地図、真夜中のグランドで ほんとうに恐縮してしまうほど、丁寧に読んで下さり、また拙文の問題点を指摘してくださっています。弁解じみ…

文化と社会のパラドクスについて――明治時代の「美術」問題から

芸術は誰のものなのか。みんなのものなのか、あるいは見る人が見て分かれば良いものなのか。マルクス主義なら使用価値に対する交換価値としてこれを論じるだろうし、文化人類学なら生存財に対する威信財としてこれを論じるだろう。そのパラドックスは、私が…

ジャック・デリダ『アーカイヴの病』読書メモ―<アーカイヴ>を思想する、その手前で。

※前回前置きで終わってしまった記事の続きです。 原題は”Mal d’archive.”1995年刊行。英訳すると”Archive Fever.” “mal”は「苦痛」。外務省のHPにも咄嗟のフランス語みたいなページがあって、それを見ると、頭痛は” mal de tete”とかあるので、そういうニュ…

<アーカイヴ>を思想する、その手前で。

少し思うところがあって、ポスト・モダン系、現代思想系の本を読んでいる。就職してからすっかりご無沙汰になっていたのだが、やはり学生時代に愛読していた仲正昌樹さんの解説に助けられながらではあるが。また思想系の本を手にとってみようと思った理由の…

「図書館と歴史学の間」小考

最近目にとまった記事から 興味深い3つの記事の紹介から始めてみたい。 山田太造「日本史研究推進における情報技術・デジタル技術の役割」『人文情報学月報』第17号(2012年12月27日付発行) 情報学と日本史研究の「距離」について、こんな風に的確に要約さ…

「残念な論文」執筆法

院生時代に愛読していた『MASTERキートン』に好きな話がある。研究者と保険屋の間で「優秀な保険の調査員」であることに悩んでいたキートンが大学図書館に行ったときのもので、図書館でバイトしている院生がカウンターに現れた人物をキートンと知るや、その…

学びて時にこれを習う(5) 藩校文庫とその行方

前回まで (1)、(2)、(3)、(4) 文庫とは何かを考える 江戸時代の学問観と文庫の関係を辿ってきて、ようやく文庫設立の動機のようなところまで書くことが出来た。しかし国学者が作った文庫以外にも、江戸時代には多数の文庫が存在した。幕府の昌平…

学びて時にこれを習う(4) 国学と文庫

国学の登場 前回まで(1)、(2)、(3) 前回の終わりで、近世思想における学問の展開と文庫について、もう一度新しいフレームのなかで考え直してみることも重要そうだと書いた。そういった図書館史を構想する場合、もちろん私自身がもっと江戸時代の出…