歴史的資料を図書館に見に行く

 以前同僚に昨日書いたような歴史的資料の話をしたら、その重要性はわかったんだけれど、じゃあどうやって探すんだ。ということを言われた。確かにそれはもっともな話である。

 そもそも史料とは何か。これについては古典がいっぱいあるのだけれど、大学院に入る時に古文書学の試験があるので、前近代についてはこれを

古文書学入門

古文書学入門

 また、近代史については、これを最低限通読すべし。という風に私は先輩から伝え聴いたのだが、他所でもそうなのだろうか(まだ先に取り上げた『近現代日本人物史料情報事典』のような夢のような事典が無い時代の話であった)。

近代史料解説・総目次・索引 (日本近代思想大系)

近代史料解説・総目次・索引 (日本近代思想大系)

 最初の質問に対して、同僚に、でもそれは卒論とかなら一般的に図書館で見ることが多いんですよ、と言ったら割と変な顔をされた。

 郷土資料室があるじゃないですか、とまで言ったら理解してもらえた。

 OPACに出てこない資料が大事だ、と先に書いたが、歴史学にとって図書館が大事ではないという意味では無いのである。どうもこのあたりの齟齬を何とかできないかと日々悶々としているのだが、道は長そうだ。

 日本近代史に関しては、普通NDLの憲政資料室に行く。憲政資料室って何だという方は、NDLのホームページか、次の本を参照されたい*1

日本近代史学事始め―一歴史家の回想 (岩波新書)

日本近代史学事始め―一歴史家の回想 (岩波新書)

 今読み返してみて、田舎の学生だった私は、確か大学一年生のときに例えば次の一節を読んで、鼻息を荒くすると同時に、まだ入れないことに気がついて途方に暮れたことなどを懐かしく思い出した(当時の年齢制限は20だった。今は18歳以上ならば入れる)。

 近代史関係の膨大な史料集積という意味では、憲政資料室は他に類をみません。近代史をやろうという人は、どうしたって憲政資料室に行かなければいけないんです。それだけのものが蒐集・整備してある(166頁)。

 そのほか、人物について調べるならば、その人物の出身地や晩年を過ごした地域の図書館の郷土資料部門に情報がないか当ってみるという手がある。

 私などは、図書館というのは一点モノの資料を大事に保存するところ、と認識していたので、必ずしもそうではないというか、整理しにくいので、ことと次第によってはむしろ出来るだけそっとしておきたいと思われているフシがあると気づいたのは、実に就職してからのことであった。

 なので、この

長らく自治体が設置する公共図書館運営の「聖典」として読み継がれてきたという『中小都市における公共図書館の運営』(日本図書館協会、1963)を初めて読んで、次の一節に触れたときに、「馬鹿じゃなかろうか」と一人で声を挙げて怒り狂ったりもした。

 これの「図書館の保存的機能」について述べた箇所にこうある。

これは、戦時中のファッショ化に対する図書館の抵抗として意義はあったかも知れないが、現在では全く意味がないばかりか、有害でさえあるといってよい。近代公共図書館は、まず資料を積極的に提供するところであって、保存はあくまでも提供のためのものなのである。とくに、まだ地域住民の生活の中に根をおろしていない日本の公共図書館の現状では「保存」は一部好事家のためのサービスにしかならない(52頁)。

 まあ、この一節が書かれるに至った経緯や時代状況、さらに対象となっているのが大規模な図書館ではなく、図書館によっても、公共図書館大学図書館専門図書館等々の館種によって、色々と機能に違いがあるのだという点を知るにつけ、今はもう少し客観的に見られるようにはなったが。

 「図書館法」(昭和25年4月30日公布法律118号、平成23年8月30日改正)の第3条に、こうある。

第3条 図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。

  1. 郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること。
  2. 図書館資料の分類排列を適切にし、及びその目録を整備すること。
  3. 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること。
  4. 他の図書館、国立国会図書館地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に附属する図書館又は図書室と緊密に連絡し、協力し、図書館資料の相互貸借を行うこと。
  5. 分館、閲覧所、配本所等を設置し、及び自動車文庫、貸出文庫の巡回を行うこと。
  6. 読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を主催し、及びこれらの開催を奨励すること。
  7. 時事に関する情報及び参考資料を紹介し、及び提供すること。
  8. 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し、及びその提供を奨励すること。
  9. 学校、博物館、公民館、研究所等と緊密に連絡し、協力すること。

 これを読んでもやっぱり郷土資料は大事なんじゃないかと思うのだが。といっても、例えば1999年に出た

地域資料入門 (図書館員選書 (14))

地域資料入門 (図書館員選書 (14))

にも、「図書館関係の本が数多く出版されているのに、なぜ地域資料に関するものが少ないのでしょうか」という問いが出された後、「大半の司書講習では全般的な図書館資料論に埋没してしまい、単独では取り上げられなかった」とされていて、さらに

これまでの公共図書館経営理念の中に、地域資料の必要性が十分に確立されていなかったことが最大の要因(はしがき)

と書いてあるのだから、郷土資料に対する歴史学側の認識と、図書館情報学の資料論との間には存外大きな溝が、(もしかしたら今もなお)あるのかもしれない。

 そういうわけで歴史の勉強をすると日々図書館のお世話になるのである。そのお世話のなり方が、案外図書館情報学でいうところのサービスとしっくりこないことがあるのかなと思ってこの記事を書いてみた。図書館と歴史学の関わりが念頭にあったので、アーカイブズの機能については、全然触れられませんでしたが、これはそのうちまた改めて。

*1:このほか、最近は以下の記事がNDLから出ている。国立国会図書館主題情報部政治史料課「大久保利謙先生に聞く 近代政治史料収集のあゆみ」『参考書誌研究』73号(2010.11)、国立国会図書館主題情報部政治史料課「大久保利謙先生に聞く 近代政治史料収集のあゆみ(二)」『参考書誌研究』74号(2011.3)、「この人を知る:大久保利謙」『国立国会図書館月報』606号(2011.9)