『中国化する日本』を持ってビブリオバトルに行ってきました。

ビブリオバトル、というものをご存じだろうか。

5分間で口頭で書評して、参加者が一番読みたくなった本を競い合う

勉強会とエンターテインメントの中間形態のような場である。

2007年頃から、京都を中心に関西圏ではじまり、

一昨年あたりから図書館系のイベントとしても積極的に活用されるようになり

昨年末には全国大会が催された。

ビブリオバトルの歴史についてはこちらを。

また、考案者によるビブリオバトルの設計に関する説明が

下記論文に掲載されている。


ルールは、いろいろ改良が重ねられつつあるようだが

今はこういう形になっている(公式ページによる)。

  1. お気に入りの本を持って集まる!
  2. 順番に一人5分で紹介する!(+2~3分のディスカッション)
  3. 「どの本を一番読みたくなったか?」で投票を行い チャンプ本 を決める!

2月11日に、京都の図書館員が集まってのビブリオバトル大会が行われた。

しかも嵐電の車両一台借り切って。

なんとも豪華な会で、へぇ~と思っていたら

主催者の方にひょんなことから「登壇者が足りませんから出てください」

と、1週間ほど前に僥倖のようなお誘いをいただいたので、行ってきた。

概要はこちら(Ku-librarians勉強会京都図書館情報学学習会


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(うおーこれ貸し切って、これに乗って書評会するのか…豪華すぎるだろ…と思いました)

お題は「2011年に読んだ本」。

当日、アドリブで適当に変えてしゃべったので、

正確な再現ではないが、一応原稿も作ったのであげておく。

(5分ということは、だいたいA4で一枚が限度だから原稿は作りやすい。なお、禁止されているのかどうかわからないが、原稿は読み上げないのが普通で、今回のビブリオバトルでも読み上げている人はいなかった)

こんな話をしてきました。

 こんにちは。

 今日のお題が「2011年に読んだ本」ということで、何が良いだろう、と考えたのですが、みなさん、昨年どんな気持で本を読まれましたか?今日でちょうど11か月目になりますが、私は、3月11日の震災後の様々な展開で、色々先の見えない不安な気持ちになりながら、読むことが多かった。その意味で、私の2011年感を最もよく体現してくれていて、唸らされた本を、今日は持ってきました。こちらです。

 與那覇潤さんの『中国化する日本』です。

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史

 

 タイトルだけみると、一瞬、政治評論系の本に見えますが、歴史の本です。私、歴史学をずっとやってきたのですが、私、正直ちょっと図書館の人は、歴史に対する思いやりが足りないのではないかと最近不満を持っています。私が図書館の歴史の勉強会をやっている動機も実はそこにあったりするのですが・・・。歴史のファンの方はいるんです。どの戦国武将が好きだとか、軍事マニアの方とか。それ以外で意識の高い方はすぐ政治評論系の話題に飛びついてしまう。そうじゃないんだ。面白い歴史はそこじゃないんだ。でもそのもどかしさをどう伝えれば良いのか、と悩んだ上で思うのは、この本のような、「もっと面白い」歴史の考え方をパッケージして見せる以外ないのかも、ということです*1 

 タイトルの「中国化」っていうのは何かというと、結構複雑なのですが、かみ砕くとこういう感じです。名目だけでなく政治権力も掌握した絶対的な人物が、普遍的な道徳を掲げ、能力主義で、共同体的=ムラ社会的なものをどんどん壊していくような社会への志向性、これが、とくに「宋代中国」に顕著だったシステムということで「中国化」と呼ばれます。

 この逆が、日本の江戸時代に成立した社会です。江戸時代、権威は天皇に、政治権力は将軍に帰属していました。朱子学はありましたが、身分制社会で科挙もありません。地域社会の結束も極めて強い社会でした。それで、この二つの方向の間を揺れ動いたものとして、平清盛の時代から近代までの日本史を描き直したのが、この本です。

 著者に言わせると、明治維新というのは、江戸時代からの脱却であり、藩を解体して中央集権を目指し、身分制を撤廃して試験による官吏の登用を始めたという意味で、実は「中国化」だとされます。ところが、それにしんどくなった人たちが揺り戻しをはかって、20世紀にはいってしばらくしてから「再江戸時代化」をはかり、その体制が、実は冷戦頃まで続いてしまう。そしてその後、かつての小泉さんのような、今は橋下さんのような強いリーダーが登場する状況、すなわち「中国化」が進行しているとされます。

 「中国化」というのは、この本の巻末に年表があるんですけど、日本ではこれまで長くても100年続いていない。つまり多くの日本人にとっては結構つらい社会なのです。私が2011年に感じた不安も、実はそこにつながってきます。

 ではどうするか。

 そのための処方箋が、最後の章に書いてありますが、これがいいです。詳しく紹介したいところですが、ぜひ手にとって読んでいただけたら嬉しいです。

 そろそろ時間ですね。最後にこの本の著者のメッセージでもあり、私が本書で一番好きな一文を添えて終わります。「本書が、しばしば一部のオタク向けのマニアックな雑学、ないしは平常時のお遊びであって危機の時代の有用性の乏しい虚学と勘違いされがちな歴史研究が、本当はこれからの国家国民の再建にとっていかに必要な学問であるかを、少しは証明することにつながってくれればと願っています」。

 私も勉強会などを通じて、図書館の人にももう少しこういう歴史への関心をもってもらえるよう貢献できたらいいなあ、と思っているところです。ありがとうございました。

図書館の人って、外側から見るよりも中に入ってみると

なんか歴史に対する関心が薄く見える…という、ちょっとした戸惑いがあって

いささか上から目線の物言いになっているのはお許しいただきたい。

なお、歴史っぽい本ならおそらく被るまい、と踏んだのだが

あとから登壇した方が網野善彦をもってきたりしていて

「歴史に関心ないとか言ってごめんなさい前言撤回します」

と平謝りしたくなったりしたことは内緒だ。

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取り上げられた本たち

なお、当日のtogetterも作成されているので、こちらをご覧いただければ、少し雰囲気がわかるかもしれない。

5分間という制約もあって、結構喋り足りないところもあるが、

そのあたりは発表後の質疑応答のなかで、埋められていく。

「『一般意思2.0』かこの本か、どっちから先に読もうか迷ってるんですけど」

とか

「著者の方って、もともとのテーマは違うと思うんですけど、

どうしてこういう本を書かれようとしたんだと思われますか」

とか

「図書館は「中国化」していくのか?」

とか、当日(実はこの前日にも別の場で予行練習させていただいた場があってそこでも)質問されたことの一つ一つが面白かったことも書き添えておく。

案外、歴史系の学生がやっている読書会にも持ち込んだら面白そうだと

やった後だとそうも思えてくるのだが、どうだろうか。

*1:なお当日は時間が全くないので一切触れていないが、この部分は、著者自身のインタビューに深く共感したことによっている。こちらを参照。