雑誌の歴史を調べてみる(1)

 少し調べたいことがあって、岩波書店『文学』のかなり古い号を繰っていたら、こういう特集があった。

  • 猪野 謙二. 他. 文学雑誌をめぐって(座談会). 文学 / 岩波書店 [編]. 23(1) 1955.01. ISSN 0389-4029

 岩波書店は1950年代から、『文学』で、毎月一冊ずつ文学雑誌を取り上げて解題を載せることをやっていて、その巻頭を飾る座談会である。なお、岩波は1960年頃から『思想』で、日本の思想雑誌の特集もやっていたはずで、これらは未だに雑誌個別研究だと参照される基礎研究となっている。

 さて、上記座談会では、参加していた勝本清一郎の発言がめっぽう面白く、まず西洋の文学は単行本の上に立っているけれど、日本の文学は新聞連載の長編小説、ついで雑誌に載ったものが二次的に単行本化される…とかなり自由に語っている*1

 勝本は「日本人は非常に雑誌が好きだ」という命題をぶち上げたかと思ったら、こんなことも言っている。

雑誌というものの歴史は日本では案外古い。雑誌の歴史はまだ一冊も日本にない。あるのは新聞の歴史ですが(後略)(4頁)

いやいや!いくらなんでもそれは言いすぎなのではないのか。

と思ったが、西田長寿『明治時代の新聞と雑誌』が確かに1961年で(その増補版が1966年)、

明治時代の新聞と雑誌 (1961年) (日本歴史新書)

明治時代の新聞と雑誌 (1961年) (日本歴史新書)

また、これは未見なのだけれど、日本雑誌協会の協会史の第一巻がやはり1968年のようである。

というわけで、1955年時点では、単行本としての雑誌の歴史は「無い」という結論になるらしい。

また文中で新聞の歴史はある、といわれているのは、おそらく以下のものだろう。

新聞については、その後はこういう本もある。

  • 春原昭彦 著. 日本新聞通史 :. 4訂版. 新泉社, 2003.5. 391, 18p ; ISBN 4-7877-0308-0
日本新聞通史―1861年‐2000年

日本新聞通史―1861年‐2000年

個別新聞についての詳細な研究はもっとたくさんある。

 この手の話題にかけては他の追随を許さない書物蔵さんのブログ(古本オモシロガリズム)のエントリを拝見しても(これとかこれとか)、戦後を通覧するものが「案外ない」と結構あっさり言われていて、そうなのか。と思ったりする。

 確かに、実際調べてみると単行本の形でその後出たものは、SFや婦人雑誌やリトルマガジン等々のジャンル別の歴史か、あるいは個別の雑誌の研究かであって、そうすると明治から平成までの雑誌の動向をまとめて通覧する本というのは、とにかく無い、というオチになってしまいそうなのである。

 『国史大辞典』で雑誌を引いてみたら、以下のものも参考文献に挙げられていた。

 それでもどうも少し腑に落ちないので、本当に雑誌の通史的叙述の試みは無いのか、と調べたら、

 あった。

 戦前の話だが、1930年代に出された講座モノ、ないし明治大正史の回顧企画に掲載された一論文という形ではあるが、以下のようなものである*2


  • 尾佐竹猛 著. 維新前後に於ける立憲思想. 文化生活研究会, 大正14. 698, 17p

 明治文化研究会の一人として、超人的な資料収集を行った尾佐竹の著書の一部に言及がある。

 明治文化研究会は、宮武外骨らの熱意もあって、特に新聞・雑誌など民間の資料収集に力を入れたことがつとに指摘されているので、尾佐竹の叙述にもその成果が存分に発揮されたというわけである。


  • 明治大正の文化. 博文館, 1927. 704p 図版13枚

 博文館『太陽』の第33巻 第8号(増刊号)、博文館創業40周年記念号である。これに、小野秀雄「我邦新聞雑誌発達の概観」が掲載されている。

 『太陽』は大正以降『中央公論』の勢いに押されて振るわず、この翌年に廃刊になっているが、目次総覧でみると、同じ号に石井研堂が「明治初期の少年雑誌」という記事を寄せている。

 このほか堺利彦が「赤旗事件の回顧」なる一文をシレっと書いていたりして、なんだか凄い号だなと思ってしまう。


 明治文化研究会の一大事業だった『明治文化全集』第18巻が「雑誌篇」になっていて、明治初期の主な雑誌の翻刻が掲載されているほか、尾佐竹らの解題や、宮武による年表が掲載されている。


  • 明治大正史. 明治大正史刊行会 (実業之世界社内), 1929-1930. 15冊

 実業之世界社の明治大正史の第5巻に、松井史亨「明治大正新聞雑誌発達の概況」というのがあるらしく、最近日本図書センターが複製版を出している。

 この松井という人はどんな人なのだろうと調べたら、神保町系オタオタ日記さんにこのような記事を発見。

 なんというか、凄い人たちである。

  • 木村毅 著. 現代ジャアナリズム研究. 公人書房, 昭和8. 376p

 同書に「日本雑誌発達史」という項がある。

 木村は、これに先立つ1930年、内外社の『綜合ヂャーナリズム講座』の第1巻と第4巻に同タイトルの文章を書いているようなので、その再録と思われる。

 なお、『総合ヂャーナリズム講座』も下記の通り日本図書センターからやはり複製版が出ているので、それで見られそうだ。

総合ジャーナリズム講座 (第1巻)

総合ジャーナリズム講座 (第1巻)

 日本近代史学の泰斗・大久保先生のご著書にも「文藝雑誌発達の概要」という章がある。

 このほか、皓星社の記事でひっかかったより古いものでは以下のものも。

  • 神長倉生.雑誌の歴史. 日本一.4(5) 1918.5.
  • 千葉亀雄.新聞雑誌の発達.解放.3(10)1921.10.1

 また、上記座談会の後で、雑誌の歴史に言及していそうな雑誌記事で目にとまったものに以下のものがあった。

そのほか、図書館に関係するものでは、こんな特集も。

  • 雑誌の時代と図書館<特集>. 図書館雑誌. 76(4) 1982.04. p195~220 ISSN 0385-4000

 いずれも大半は筆者がOPACを叩いたりして出てきた結果をまとめただけで、未見のものが多いので、備忘のためのメモということで、正確さは何とぞご容赦願いたい。

 探せば必ずもっと出てくるはずである。

 私はというと、どうにか木村毅の「日本雑誌発達史」を入手して、読んでみたらとても面白かったのだが、その読書メモは他日まだ力が残っていたら・・・ということで。

(2012/2/1 レイアウトを修正し一部追記しました)

追記

本記事を執筆後、KYさんから以下の文献をご教示いただいた。ありがとうございます。

  • 近代文学雑誌事典. 国文学 : 解釈と鑑賞 / 至文堂 編.. 30(13) 1965.10. ???? ISSN 0386-9911

 長谷川泉の編集によるものだそうである。

 たしかに、近代文学史研究と雑誌研究はある意味不可分なので、文学系の雑誌をめくると相当な数が出てきそうだ。

 文学雑誌の歴史で調べるのも良いかもしれない。

また、こちらのサイトから、さらに以下の文献があることを把握した。

 塩沢さんには、確か出版史のほか、ベストセラー論などの著作もあったように記憶する。

  • 福島鋳郎 著. 雑誌で見る戦後史. 大月書店, 1987.4. 191p ; ISBN 4-272-33014-4

 先のリンク先で、書物蔵さんが「福島じゅうろうさんのがあったが」と書かれていたのはおそらくこれだろう。

 また、調査過程でかなりお世話になったものものとして、以下のものがある。

  • 神 繁司. ハワイ・北米における日本人移民および日系人に関する資料について(6). 参考書誌研究 / 国立国会図書館主題情報部 編.. (66) 2007.3. 1~91 ISSN 0385-3306 ※本文リンクはこちらから。

 『参考書誌研究』にずっと連載されていた記事の最後を飾るもので、資料としての雑誌について述べられている。

 特に註(52)以下の【概観】【創刊号】【雑誌の研究】【移民とメディア】【青少年・婦人雑誌】にまとめられた文献は参考になる。

 また、移民記事の紹介かと思いきや、主要雑誌の編集主幹・代表的記者、田口卯吉(『東京経済雑誌』)、徳富蘇峰(『国民之友』)、吉野作造(『中央公論』)、三宅雪嶺志賀重昂(『日本人』)、大橋佐平・高山樗牛浮田和民(『太陽』)、石橋湛山(『東洋経済新報』)等々にも「正直ここまでやるか!」というくらい詳細な文献紹介がついている。今の私ではとても真似できない…。

 情報量が膨大すぎて逐一紹介できないのが惜しいが、とりあえずこの辺で。

(2012/2/2追記しました)

こういうの書いていたら書物蔵さんの目に止めていただいたようで

以下のエントリが発表されました。

「雑誌研究ってば、気づかれてはいたのに個別研究の積み上げだけでここ20年以上推移してきたとゆーことーぉっつ!(゚∀゚ )」てのは、そうなんでしょうな。

以下の文献を知りました。

大澤さんも書いていらしたのか・・・。

(2012/2/5追記しました)

*1:参加者は青野季吉勝本清一郎伊藤整・山田清三郎・猪野謙二。

*2:記事は国立国会図書館サーチ、NDL-OPAC近代デジタルライブラリーの目次の検索に引っかかるもの、その他皓星社の雑誌記事データベースや手持ちの古本などから、探してみた。「雑誌」「歴史」で検索すると、普通の歴史雑誌が大量に引っかかってしまうので、昭和初期によく用いられた「発達史」という単語でも検索してみたほか、本記事末尾に掲げた『参考書誌研究』の脚注を参照した