読書週間なのでお勧め本のプレゼンをする

Twitterで「#読書週間だからRTされた数だけお勧め本プレゼンする」というタグがあったのでやってみた。

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結構主題がばらけたので、備忘のために、もう一回主題別にまとめなおしてみたら、自分の日ごろの関心が思いのほかくっきり出たので、関連で思い出した本も補いつつ、掲げてみたい。

本とその歴史について

  • 和田敦彦『読書の歴史を問う』(2014年、笠間書院)。
読書の歴史を問う: 書物と読者の近代

読書の歴史を問う: 書物と読者の近代

リテラシー史というジャンルを開拓してきた著者の2014年時点の総括。今後読書の歴史を考える上では必読。図書館史を開かれた文脈に置こうと考える上でも有益な論点を提示する。

雑誌と読者の近代

雑誌と読者の近代

読者の歴史を系統的な勉強を始める前に、最初に接したのが本書。『太陽』の読者像を初めとして、田舎教師たちの読書環境等、本書の発想に私自身かなりの影響を受けている。いつかこれを越える本を書きたい。

岩波書店広辞苑などの造本に関わった著者の随想集。日本造本史でもあるが、何よりも「正しい本の扱い方」を、就職後私はこの本に教わった。

本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか

本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか

年間に発行されている書籍のタイトル数が8万件といった出版統計上の主要なデータはこの本で知った。合わせて2009年の時点での出版と読書をめぐる状況を紹介する。電子書籍普及後、状況は変わっていると思うが、図書館で働く以上、出版の世界への関心は絶えず持たねばならないわけで、その意味でも基本図書といえる。

本屋一代記―京都西川誠光堂

本屋一代記―京都西川誠光堂

戦前の京都にあった伝説の書店西川誠光堂のハルおばさんと、それをめぐる三高生・京大生たちの青春劇を活写。日本思想史の巨人たちの横顔が彷彿とされる気がする好著。

副題はケンボー先生と山田先生。辞書にもドラマがある。辞書編纂者・見坊豪紀山田忠雄の協力と決別。牽強付会ギリギリのところで(?)、語釈の背景や意図にまで肉薄する語り口はもの凄い迫力です。赤瀬川原平新解さんの謎』が面白かった方には、是非読んでいただきたい。

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)

図書館のこれまでとこれからについて

  • 江上敏哲『本棚の中のニッポン』(2012年、笠間書院)。
本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究

本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究

副題に「海外の日本図書館と日本研究」とあるとおり、海外の日本図書館を紹介したもの。文化情報発信の重要性を説くだけでなく、一歩進んで、デジタル化を含む押さえておくべき課題と事例を紹介。

  • 井上真琴『図書館に訊け!』(2004年、ちくま新書)。
図書館に訊け! (ちくま新書)

図書館に訊け! (ちくま新書)

最近、猪谷千香さんの『つながる図書館』が出るまでは、入手可能で図書館関係者以外に勧められる図書館の新書の最有力候補はこれだった気がする。レファレンス業務の考え方も論じているので、業務入門編としてもお勧め。

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

公共図書館の論点整理 (図書館の現場 7) (図書館の現場 7)

無料貸本屋論争、ビジネス支援、課金、専門職、資料亡失等々今日の論点が網羅されているという炯眼さに驚く。それとも業界が進歩していないのか。これからの図書館を語る前に、未読の方は是非お読みいただきたい一冊。

日本の近代をめぐって

近代日本思想案内 (岩波文庫 (別冊14))

近代日本思想案内 (岩波文庫 (別冊14))

岩波文庫の思想書に入っているものの文献ガイド。入門書ではあるが、はじめにで展開される思想史の方法についての考え方と、主要な著作と文献を紹介する構成は目配りが効いており、通史として極めて有用。 明治時代の思想史なら、松本三之介『明治思想史』や『明治精神の構造』なども参考になる。

明治精神の構造 (岩波現代文庫)

明治精神の構造 (岩波現代文庫)

  • 中野目徹『書生と官員』(2002年、汲古書院)。
書生と官員―明治思想史点景

書生と官員―明治思想史点景

研究論文以外の歴史に関する随想や書評、講演を集めたもの。明治思想史点景。随所に著者の歴史研究の方法が語られる。書名は、「知識人」や「思想家」という枠組みを前提にせず、日常的に直面していた状況から思想を読み取ろうとする著者の問題意識を示す。

売文社を創業した堺利彦の生涯を同時代の資料も踏まえて丁寧に描き出した評伝。社会主義者にとって「冬の時代」とされた逆境の時期を、決して屈せずに諧謔を交えながら生きぬいていく堺の姿を通じて、人の本当の「勁さ」のようなものを教わる想いがする。

昭和維新試論 (講談社学術文庫)

昭和維新試論 (講談社学術文庫)

卒論から博論まで付き合うことになる研究テーマを決めた本という意味で思い入れが凄く強い本。丸山思想史学の影響下から出発しながら、丸山とは異なる独自の昭和ナショナリズム像を提出した著者は、後の昭和維新に連なる、明治国家への違和感を表明していった人たちの精神の系譜を描き出す。

  • 木村直恵『〈青年〉の誕生』(1998年、新曜社)。
「青年」の誕生―明治日本における政治的実践の転換

「青年」の誕生―明治日本における政治的実践の転換

「政治」から「文学」へ、という明治20年代の思想史的主題に、「壮士」や「青年」という若者像の表象から切り込んだ本。日本近代史の勉強を始めた頃に読んだ懐かしい本であり、雑誌が好き過ぎて自分はおかしいのではないかと自問する幸徳秋水の姿など、明治二十年代ジャーナリズムを考える上で興味深い挿話も多数収録している。

  • 飛鳥井雅通『日本近代精神史の研究』(2002年、京都大学学術出版会)。
日本近代精神史の研究

日本近代精神史の研究

学生時代から、文化史や文学史と思想史を行ったり来たりする飛鳥井先生の独自の方法に魅了されてきた。どれを勧めていいか迷うが、方法論文も収めた遺稿集である本書は、国学天皇像の問題を糸口として、国民国家形成と文化の問題という著者が取り組んだ主題群を収める。文化史の語り方を求めて時々読み返す。

東条英機―太平洋戦争を始めた軍人宰相 (日本史リブレット 人)

東条英機―太平洋戦争を始めた軍人宰相 (日本史リブレット 人)

人間的に好きか嫌いかということと、政治家としていいか悪いかは、峻別しなければ政治史としてお話にならないという視点を徹底的に貫いた評伝。組織のなかで他人を信じられないが故に自分で仕事を抱え込みすぎてしまう能吏の姿は、何か今でもそういう人間像を想像するに難くなく、現代と無関係の話ではない課題であることを思い知らされる。著者の近刊『近衛文麿』と合わせて読まれたい。

近衛文麿 (人物叢書)

近衛文麿 (人物叢書)

  • E.H.ノーマン 著 ; 大窪愿二 編訳『クリオの顔』(1986年、岩波文庫)。
クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

歴史学をやるならぜひともお読みいただきたい。思い入れもあり、なんども励まされることもあった随想集。とくに「歴史はどんな教訓にもまして、われわれを寛容に、人間的に、そしておそらく賢明にさえするものである」と語った「歴史の効用と楽しみ」が何よりも好き。

渡辺京二評論集成(2) 新編 小さきものの死

渡辺京二評論集成(2) 新編 小さきものの死

著者独自の民衆論を集めた評論集。最近は色々な選集も文庫等で出ていて、色々なものに収められているが、本書所収の小品のうち、「小さきものの死」と「挫折について」は、自分自身の歴史をみる視点の矯正のために、しばしば良い気になって歴史を語っていないか?という戒めとして読み返すことがある。

司馬遷―史記の世界 (講談社文芸文庫)

司馬遷―史記の世界 (講談社文芸文庫)

司馬遷は生き恥をさらした男である」おそらくだれもが驚くであろう冒頭の一行は圧倒的。ただ記録すること。そのことの持つ重さを考えさせられる。歴史家はどんな思いと覚悟で歴史と取り組まなければならないのか。生き恥を曝した司馬遷の姿に深い感銘を受けずにはいられない。

明治精神史〈上〉 (岩波現代文庫)

明治精神史〈上〉 (岩波現代文庫)

個性的な民衆思想史の開拓者のうち、私が一番魅了されたのは色川氏だった。透谷から出発して周辺人物を徹底して掘り下げるなかで、文字通りお蔵入りになっていた「五日市憲法」を発見し、民衆思想の地下水脈を掘り当てていった研究プロセスに実は今も憧れている。歴史学の立場から思想史を語るということの魅力に溢れた一冊だと思う。

夏目漱石森鴎外石川啄木幸徳秋水ら明治文学者が登場。これ、偶然書店で見つけてしまって読みふけってしまい、卒論が丸一日停止したのは懐かしい思い出である。

戦後を考える

  • 青木保『「日本文化論」の変容』(1999年、中公文庫。初版は1990年)。

戦後思想家の著作を読む上でも、「否定的特殊性」「歴史的相対性」「肯定的特殊性」「特集から普遍へ」として設けられた著者による戦後の日本文化論の時代区分は、いまでも議論の前提になると思う。1990年に書かれた本だから、その後のグローバル化などはもちろん射程に入っていないのだが、逆に今どんな時代なのか考える上でも示唆に富んでいる。

成熟と喪失 “母”の崩壊 (講談社文芸文庫)

成熟と喪失 “母”の崩壊 (講談社文芸文庫)

まだ、近代化とはなにか素朴にいいことであるかのように思っていた学生時代に手に取り、取り上げられた作品も碌に読んだことがないまま、とにかく凄まじい文章を読まされた印象だけが鮮烈に残った。「「成熟」するとはなにかを獲得することではなくて、喪失を確認することだ」というフレーズは、やはりズシンと来る。

〈方法〉の問題に関心を持ってきた近代民衆思想史の牽引者が、戦後思想史と戦後歴史学の特徴を語る。ある学問史の証言。著者の渾身の想いがつまった、ほぼ論文一篇に相当するような「あとがき」も印象的。

恋愛とか仕事とか人生とか

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)

タイトルより遥かに良い本。「なぜモテないかというとあなたがキモチワルイからだ」という一刀両断から始まり、適度に自分に自信を持ち、人の話を聞き、自分を押しつけない。そんな人づきあいの要諦を説く。自分を猛省しました。

イエスタデイをうたって (Vol.1) (ヤングジャンプ・コミックスBJ)

イエスタデイをうたって (Vol.1) (ヤングジャンプ・コミックスBJ)

圧倒的な画のうまさと、それを上回るゆっくりとした物語の進行。いつまでも付き合わない男女たちの物語。それでも、面倒くさいということは愛しいことであり、恋はいつもウダウダするものなのだ。シナコ先生が幸せになりますように。

荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫)

荻生徂徠「政談」 (講談社学術文庫)

働き出してからビジネス書も手にするようになると、逆に深く面白く読める古典というのはあって、私の中ではこれが最高峰。変にビジネス書っぽく読む必要ももちろんないのだが…現代語訳がある本書がイチオシ。高山大毅氏の解説も興味深い。

こころ (岩波文庫)

こころ (岩波文庫)

学校でも習わず一切読んだことが無いという人はむしろ少なそうだが、就職してから読み直すと、全然違った印象を受ける。江藤淳がかつて喝破したように漱石の本は基本どれも世知辛いトーンが付きまとうが、歳のせいか、いつしか「私」から「先生」の側になった自分を感じてしまう。

アート、文芸批評をめぐって

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)

仕事の都合で読み始めた本だが、公的な空間で展示され、新聞雑誌で批評されることで公共的な存在たらんとしてきた近代芸術のあり方が照射されている。芸術批評の思想史的な意味を考えるヒントにもなる。同じ著者の『西洋音楽史』もお勧め。

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

日本におけるゴッホ受容史の本。白樺派小林秀雄も当然カラー写真も見ずにゴッホの作品と人生とをと語っていた。だから初めて現物を眼にした時。彼らはゴッホが大量に使う黄色の絵の具にむしろ戸惑った。こう指摘されてハッとした方は本書を是非読んでいただきたい。日本人が何をゴッホに求めてきたのか。教養主義・人格主義の風潮のなかで芸術と人生がいかに結びついて行くのかを教えてくれる。

長く岡倉と向き合ってきた著者が、時代のなかで岡倉が何を考えてきたかにこだわったかを課題に据えて書き下ろした渾身の評伝。本書が指摘した、「天心」雅号は没後弟子たちが使い始めて偶像化したという問題は、色々な史料発掘により揺らいできた感じはあるけれど、「日本画」の革新運動を続々成功させて、伝記でも肯定的に語られることの多い日本美術院時代の岡倉の内面に、ふかい挫折があり、孤独があったという視点に立つ本は、まだあまりない。

ギャラリーフェイク(1) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク(1) (ビッグコミックス)

ヒーローものではないが、美に身も心もささげ、圧倒的な知識と技術をもって世界に対峙していくフジタレイジは私のヒーローであった。美術の目利きはできないが、できれば本の目利きにはなりたいものだという恥ずかしい夢は、今でもまだ少し持っていたりする。

番外編

なまじ関係者なので宣伝になってしまって言いにくいのだが、河野有理編『近代日本政治思想史』(2014年、ナカニシヤ出版)と、井田太郎・藤巻和宏編『近代学問の起源と編成』(2014年、勉誠出版)は、どちらもお勧めなので、よろしくお願いします。

近代学問の起源と編成

近代学問の起源と編成