日本史研究とiPad

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


今年は正月休みも長く、例年より少し長めに帰省したりできたので、多少時間も出来、iPadを使いながら原稿を書くようなことを試みたところ、ふと、次のような疑問がわいてきた。

「自分は、iPadを買ってから1年が経過しようとしているけれど、ほかの人たちはどんな風に活用し、あるいはどんなアプリを使って、研究なり調査なりに役立てているのだろうか?」

そこで、以前書いた「日本史研究とwebサービス」というエントリの続編として、また自分の手のうちを見せることで、よりよい発想を教えていただけると大変うれしいという魂胆から、懲りずに恥をさらしてみたい。

こんな使い方

使用しているiPadは第4世代iPadの32GB、Wi-fiモデルである。

f:id:negadaikon:20140109220922j:image:medium

日本史の研究に使うという観点で書くので、おそらく大多数のビジネススキルとか理科系の作法とかと著しく異なるところがあろうと思われる。論文の電子化環境の違いからして、たぶん同じ歴史学でも西洋史の人とも違うことが予想される。なので、まずはいくつかの前提条件を書いておくのが無難だろう。


テキスト入力をしない。

私は今はiPadでの文章入力はしない。長距離移動などの際には、iPadを使ってのテキスト入力もしたいなあと思った時期があるのだが、今は原則しなくなった。書いているときは、こんな風なことが出来るようになったのかと感慨深いのだが、だからといって作業能率が劇的に良くなったりしなかったことによる*1

メールの下書きや、簡単な文章の草稿程度のメモならば、例えばiPhone(使用しているのはiPhone5)で、通勤途中の電車のなかで、単語や文節を箇条書きにして作った後、自分のメールアカウント宛に転送し、帰宅してから自宅のパソコンで開いて整形・修正してしまうことがほとんどである。

実際に人に出したメールの下書きを出すと差し障りがありそうなので、使っていないもので例を出すと、実際のメモの画面は、このような感じ。

f:id:negadaikon:20140109221124p:image

以前このブログに感想でも書こうかと思って結局もたもたしているうちに賞味期限切れになってしまった感のある、昨年11月に福井に行って見てきた岡倉天心関連展示の感想メモである。没ネタの供養のために出してみる。

また、史料の翻刻を試みる場合、経験された方ならうすうすお気づきだろうが、予測変換は鬱陶しいことこの上ないので、出先ではキングジムポメラ等で、テキスト入力に特化したデバイスで作ることが多い。使っているポメラの機種がDM20なので、iPhoneのアプリにあるQRコードリーダーで読みとって携帯からメール送信も出来る。

キングジム デジタルメモ ポメラ DM20  プレミアムシルバー

キングジム デジタルメモ ポメラ DM20 プレミアムシルバー

プレゼンテーション資料の作成もしない。

要は、写真やPDFの画像を拡大したり管理できれば、恩の字だというスタンスで使っている。「そんなのiPadの意味がねえ」と言われてしまうかもしれないのだが、日本史だとPowerpoint等を使ったプレゼンテーションが皆無なので、正直なくて困らない。


雑誌論文は読まない。

日本史の論文だと、引用史料は文末ないし章末脚注がおそらく標準だろうと思われる。このため、読み進めていく過程でもしも気になる所が複数あれば、しょっちゅう本文と脚注を行ったり来たりの相互参照する羽目になるので、圧倒的に紙媒体に利がある気がしてしまう。ページ末尾に脚注がある横書き文献や、リンクがきちんとしているものであれば、ちょっと状況は違うかもしれないが、コアジャーナルと呼べるであろう『日本歴史』とか『日本史研究』などの雑誌は、そもそも学会員になっているので、現状ではあまり使わなくて済んでしまっている。

そういうわけで、文献管理ツールの出番もあまりない。本当に一瞬だけMendeleyを使っていたが今は使っていない。日本史関係の論文のオープンアクセス化のハードルが高いのも一因かもしれない。た、本気で追いかけているテーマはすでにテキストエディタで文献目録を作っているし、新たに追いかけたいテーマも、調べあげたものはノートに付けているから、現状での必要性があまり感じられない。もちろんこれは個々人によって事情は異なるだろう。


そうすると用途はたぶん次の3つに絞られる。

①史料を読む。

②史料を入力したりする際の補助器具として使う。

③何かの作業時に並行して電子辞書として使う。

①や②については、データやファイルを管理するためにDropboxを使っている。

これで、史料を撮影したりスキャンしたものについて、資料群ごとのフォルダを作って、そこに必要なファイルを入れて置く。その上で画像を表示させて、そこからポメラまたは自宅の端末で文字を入力する形で使っている。


辞書系アプリ

③で辞書として使うと書いておきながら、実はインストールはしていない。角川日本史辞典などは、あれば便利だし重宝する気がするのだが、使用するシーンが現状ではほぼ自宅に限られることによる。そういえば角川の日本史辞典か、山川の日本史小辞典は、学生時代いつも演習の授業に持って行っていたな。

日本史辞典

日本史辞典

外出先でちょっと確認したいことについては、iPhoneからググって何とかしてしまうことが大半である。ただ、私が知らないだけかもしれないが、もしあれば、そこそこ充実した年表があると、ちょっとしたときに見たくなるような気はする。Dropboxにエクセルで作った自作の年表を入れているので、それで代用したりすることもある。


Kindle

じつは一番iPad凄さを体感したのがこれかもしれない。はじめは洋書をamazonのペーパーバックで買うのも場所を取るし…と思い導入した。なかなか読み進められないが、わからない単語については、簡単な辞書が付いているので、なんとか読める。青空文庫もこれで読める。最初に買った洋書がなかなか読み終わらないので次々DLできているわけではないが、今こんな感じになっている。

f:id:negadaikon:20140109221605j:image

f:id:negadaikon:20140109221602j:image


和書も、講談社の選書メチエ、学術文庫、現代新書。さらにちくま学芸文庫、以前と比べても、徐々に新刊が出たら読みたいなと思うタイトルが着々と揃いつつある。青空文庫もこれで読んでいる。講談社学術文庫の古いものも電子化されていて、徳富蘇峰の『近世日本国民史』が読めるのには少々驚いた*2

一年以上前に、なんだか電子書籍ストアの品ぞろえが駅のキヨスクっぽく感じるときがある…などと書いた不見識を恥じそうな勢いである*3。ともかく、かなり充実してきている印象があり、そのうち、初めて買ったCDは何ですか?というようなノリで、初めて買った電子書籍は何ですか?という話を人としたりする日がそう遠くない将来にきそうだな、と思ったりもした。


デジタル化された資料(史料)を閲覧する。

自宅以外ではネットにはあまりつながないのでwifiモデルにしており、もしつなぐ場合はiPhoneを使ってテザリングすることにしている。

近デジの資料で、「ここは使う」と思ったコマについては、その場では入力するのが難しい。読むのと入力するのは普通同時にできないからである。そこで私はしおりの代わりにはてなブックマークに登録するということを以前からやっている。

とくに最近、無料版でも非公開ブックマークが出来るようになったので、[要入力資料]とか、嫌ならば[あとで読む]という良く使われるタグを設定して非公開でブックマークし、後でまとめてタグから呼び出して見るということは出来そうである。フルスクリーンモードなら、二段組みだと少し厳しいが、全体を一画面に収めた状態でギリギリ読めると思う。

ただしこの場合、印刷する(PDFを作る)ボタンの左隣にある「URL」のボタンを押し、てコマ数まで表示させたURLで登録しておかないと、1コマ目に強制的にリダイレクトされて泣く羽目になるので、注意が必要である。

その場合、iPadで開いた画面は、ちょうど習字のお手本のように、キーボードの左わきに置きながら、端末に入力すると具合がよさそうである。個人の感想ではあるが、やってみた印象では、タブブラウザを複数開いたり、または当該部分を印刷するより使いやすい気がするが、iPadミニだと無理かもしれない。

なお、アジ歴や『日本外交文書』はまだ試していない。


どこが電子化するか?

ちょっと前になるが、東北大学の原田隆吉という図書館情報学者の「日本史研究学生へのレファレンス」という論文を読んだ*4。これはアメリカの日本研究学生への紹介として、どういう文献があるかを紹介したものなのだが、「日本史研究の文献的構図」として、

1.いわゆる入門書、便覧

2.総合的成果

  全集・雑誌・論文 ―専門書

  概説・通史・講座 /

3.第二次資料

  索引 ―書誌

  事典 /

4.第一次資料

  復刻原典―原資料

といった区分を設けた上で、さらに日本史研究の実際的場面を説明するために、次の図が紹介されていた。

f:id:negadaikon:20140109223239j:image

この図は、本文の記述に従えば、定説化しようとする動き(=統合系)と、定説に対して自説を展開しようとする(=独立系)2つの系列が存在することを図示したものなのだそうだが、学校教育や時代考証などで、ある歴史的事実を調べたい人の論文ニーズと、ある説を打ち出すために、先行研究を網羅的に収集したい論文ニーズの二つがあることを示している点で秀逸だと思う。ちなみに、原田の専門は日本思想史で、村岡典嗣の弟子筋にあたるらしい。

さて、この図でいうと、私はちょうど上の方と下の方をiPadでどうにかし始めている気がする。普通、図書館情報学でいうところの研究資源の電子化となれば、オープンアクセスにしろ何にしろ、真ん中の部分を指していうような気がするのだが、してみると私はただひたすらに時代に逆行しているのであろうか…。


だいたい以上なのだが、やはり例によって書いてみるとうまく使いこなせていない部分が多々あるように思える。整理も考えたいので、ご助言などいただけたら幸いである。

---

と、書いたら、lib-musさんがさらに違った使い方を書いてくださいました。

こちらも参考になります。ありがとうございます。

(だいこんさんのブログの影響を受けて…)わたしの研究とiPad - lib-mus’s blog

(2014/1/13 4:35追記

*1:八割…いや九割方、なんでも形だけやった気になって満足してしまう私の性格の問題であろうと思う。

*2amazonの情報によると発売日が2013年10月になっているので、もしかするとこのときにkindleストアに登録されたのだろうか?

*3:書評紙『週刊読書人』に関しては、電子書籍アプリが存在するらしいことも、本記事執筆後に知った(2014/1/13 4:41追記)。

*4:原田隆吉「日本史研究学生のレファレンス」東北大学附属図書館編『図書館学研究報告』10号(1977)