高校日本史の学び直しに向けて今何ができるだろう

※8/23ちょっと文献追加

 図書館を退職して大学に移って日々感じていることの一つに、高校で日本史を取らずに大学に入って、後で日本文学やその他の授業でやっぱり日本史の知識がいるんじゃないかと苦しんでいる子の存在がある。日本史の担当教員になった以上、なんとかこういうギャップを埋めてあげたいと思う。

 そんな関心から手に取り、目を通した本を並べてみる。

教科書・通史のリバイバル

 最近は社会人にも日本史の学び直しがブームのようで、教科書が新しい形で出ている。アナウンサーが読んでくれる本なども出ている。

もういちど読む山川日本史

もういちど読む山川日本史

もういちど読む山川日本近代史

もういちど読む山川日本近代史

 また、新書もある。

やりなおし高校日本史 (ちくま新書)

やりなおし高校日本史 (ちくま新書)

 ただ、硬派で良いといえば良いのだが、最近の日本近代史系の新書に関して言うと、テーマのせいなのか微妙に内容難しくなっているようにも感じる。

 その他著名講師によって1冊にまとまっているものもある。この辺、問題意識を持った先生の活躍がすごい。

 こうして、ドラマなどの影響もあるのか、日本史を一通り理解したいという欲求は高いみたいである。書店に行くと結構この手の本が目に付く。

 

 びっくりしたのは雑誌でも特集が組まれていたりすることだ。

 とはいえ、大学の日本史と高校の日本史は、同じではない。高校日本史が基礎となる一通りの知識について教科書をベースにして教えているとしたら、大学の日本史は教科書の知識の重要さや記述バランスの妥当性を問い直し続けていることになる。

 「発展的な内容」だとか「応用的な内容」と言ってしまえば言えるが、大学でそれを教えないで、高校日本史の復習を大学でやるというのも変な話になってしまう。

 日本史の高大連携の壁は、思っているよりも意外と高い。

 その辺を架橋しようと試みた大学向け日本史の本もあるが、独学で読もうとすると難しいのではないか。

 そうすると勢い、補習や復習の形で、各自で学び直しのための工夫というのも求められるのだが、これも難しい。

動画で

 時間がある人ならYoutubeで日本史の講義をしてくれているムンディ先生のような高校の先生もいる。ほかにも高校日本史ならNHKの高校講座の日本史サイトでも紹介されていたりする。

 テレビなので、視覚的に入ってくる情報は非常に優れており、印象に残りやすい。最近世界史についての本も出た。


高校の学習参考書なら

 学び直しに向けて、高校の学習参考書を見るという手はある。語学春秋社の実況中継シリーズは人気が高い。ただ、ボリュームが多くてその分値段も張る。

 

 私が高校生だった1990年代後半は菅野の日本史実況中継があって、ノート綺麗に作ることをとても推奨していて、大学で日本史をやろうと思ったものの大して知識がなかった私は素直にノートを作っていたのだった(3色ボールペンにはまっていて、超重要事項は赤、やや重要なものを緑、人名だけは鬼門と思っていたらしく区別するために青を使っていた。いまだにその名残がある)。

 

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 最近見返していたら、時期区分など依拠している学説は古いものの*1、基本情報はそんなに変わらないし、まだ使えるんだなと改めて思ったりしたところだった。

 『自由民権運動』の最新動向は松沢さんの新書を読むと良いと思う。

 


 佐藤優氏が勧めている学習参考書も多いらしく、最近は書店に帯がついていたりする。

 高校時代、日本史を極めようというやつが『詳説日本史』などを手に取って周りを圧倒していたが、あれも参考書としては良い本だと思う。

詳説日本史研究

詳説日本史研究

 復習するのに、内容では、何といっても一番教科書が良いのだが、文字が多すぎてなかなか頭に入ってこないという人もいるだろう。

 それに、教科書の内容もだいぶ変わってきている。


ビジュアル系

 歴史研究者が本気を出して作ったビジュアル系解説は、良いのだが、高い。図書館で見るか、個人で買うのはなかなか難しいだろう。

 歴史漫画も馬鹿にはできない。ただやっぱりセットで揃えるのは、「ちょっと日本史の勉強し直しをしたい」というニーズに対して割高かもしれない。

 各社の比較サイトまであるが、近現代が充実しているので、個人的には集英社推しだが、この辺は好みかと思う。

 私の場合、とくに留学生には、高校の副読本の「図説」という資料集を買うように勧めている。これはビジュアルが豊富だし、索引も年表もある。元号もだが、とりわけ旧国名などは地図を見なければ留学生にはハードルが高いはずだ。慣れるとすぐ物足りなくなるだろうが、これに慣れないとその先はけっこうつらいはずである。高校時代に買った(買わされた)人は引っ張り出すといい。 

 なにより、学習参考書、学校の副読本ということで、この情報量で千円前後というのがありがたい。



人物を攻略する

 日本史の知識がないと、専門の本を読んでいくのはけっこう苦痛である。私にも覚えがある。

 

 そしてその苦痛のたいがいの原因の8割近くは、人名に心当たりがないということになると思う。大学でいきなり学ぶ日本史の本はたいがい、登場人物が多すぎるのである。知らない人がどこで活躍していったという話を聞いても、頭には残らない。学生からの反応でも、一人の人物の意外なエピソードみたいなのを雑談で話してもらうと面白くて興味が持てそう、というコメントがあったりした。

 もちろん、2割くらいは特殊な歴史用語の可能性があるが、そのような言葉の場合は括弧書きや注で補足説明が入っていることも多い。

 だから、人物がわかれば歴史もそんなに怖くないということになる。

日本史人物辞典

日本史人物辞典

 自分の場合、入門書というか概説書を読んで、そこに出てくる人名の脇に傍線を引いてノートに書き写し、さらにそのノートをもって図書館に行き、『国史大辞典』を引き続けながら重要事項を抜き書きするという方法で乗り切ろうとしていた(抜き書きにしていたのは全文書写すると訳がわからないのと、長すぎたからだ)。私が使っていたのは小学館の日本の歴史シリーズだった。

大系 日本の歴史〈13〉近代日本の出発 (小学館ライブラリー)

大系 日本の歴史〈13〉近代日本の出発 (小学館ライブラリー)


 ネットの普及と言っても携帯で何かできるわけではなかった前世紀末の話であるが、人名を英語の単語帳のようにB6サイズの京大式カードに書き取って履歴とか参考文献のメモを作っていた。

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 しかし今なら人物履歴事典のように必要な情報がコンパクトにまとまっているものもあるし、Wikipedia日本大人名辞典が入っているコトバンクで引いたってかまわないわけだ。

日本近現代人物履歴事典

日本近現代人物履歴事典

 それをevernoteなどのノートに入れて自分用の人名辞典を作っておけばいつでも参照できる。

 国立国会図書館の「近代日本人の肖像」を眺めて顔を覚えるのも一つの方法だろう(著作権切れが判明している写真を収集しているので、どちらかといえば政治家が多く、学者や文化人には載っていない人も多いのだけれど)。



入門用の概説書とその他のツール

 もしこの方法で歴史の基礎体力をつけるなら、上のように文庫化している概説書のシリーズが良いと思う。岩波新書のシリーズもありだが、人によってはちょっと敷居が高いかもしれない。そのような場合には、岩波ジュニア新書の日本の歴史などもおすすめである。

日本の歴史21―近代国家の出発 (中公文庫)

日本の歴史21―近代国家の出発 (中公文庫)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

明治維新―日本の歴史〈7〉 (岩波ジュニア新書)

明治維新―日本の歴史〈7〉 (岩波ジュニア新書)

 なお、大学の授業に出席するときには、特別講義や演習など専門性の高い科目に出るときにはハンディな日本史辞典を持参するよう指導されていた(山川の高校の用語集で手に負えるレベルではなかったのだ)

日本史辞典

日本史辞典

山川 日本史小辞典

山川 日本史小辞典

 さらに近代史の場合、人物の先輩・後輩についても抑えておくとよい。生年や出身と手がかりに並べ直しても良い。派閥も重要である。出身大学の縁で友達関係になっている場合だってある。木戸孝允伊藤博文はどっちが年上なのか、パッと見てわからないところから歴史を学び始める人はいる。

 あとは、放送大学のテキストは密度が非常に高いので、勉強しなおしにはうってつけかもしれない。

日本の近代―国民国家の形成・発展と挫折 (放送大学教材)

日本の近代―国民国家の形成・発展と挫折 (放送大学教材)

 加藤陽子先生と高校生の対談…も、学び直しの一助となるだろうか?

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

 一冊で近代史をということなら手に取りやすいのが最近の本ではこちらを勧める。


 教員の立場からやるとしたら…Vtuberは難しいとして、スライドなどの公開とかは出来そうだろうか。日本史の苦手な人に届けたいと思っても、結局日本史好きな人しか見ないという結果だと嬉しさとさみしさが半ばするのだが。

最近出た中公新書の『日本史の論点』も、巻末に色々な文献ガイドがあってありがたい。

 ほかにもおすすめがあったら教えていただきたい。

*1:写真にうつっているところで言うと、士族民権とか豪農民権とかいう区分は、私が高校生だった90年代でもちょっと古い学説になっていたと思うのだが、大学に努める研究者の論争の最前線と、高校の受験業界で定着するのとではタイムラグがあるのだな…と思った次第。でも2018年でも豪農民権でググると結構な情報が出てくるので、一度定着してしまった受験向けの知識の体系化は、そう簡単には変わらないという事なのかもしれない