日本史演習系科目の運用とSlack

 タイトルのまんまなのですが、昨年度の終わり頃から、Slackを始めて、学部3年以上の弊ゼミ生は全員登録するように。ということにしております。

 

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 全く予期せずして、今般の新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大の影響によって、新年度の授業が対面式で行えなくなったことで、昨年度末からゼミ生に声掛けしてSlackに登録せよと呼びかけていたことがギリギリ奏功している感じでもあり、また各地で始まっている遠隔授業のなかで、多少なり参考となる事例が提供できるのであればと思ってブログを書いてみます。

 

導入経緯

 

 Slackを使おうと思ったきっかけはいくつかあるのですが、一つは、事務仕事と研究指導のメールを分離しないと後者が埋もれて破綻する、という危機感が強くなったことによるものです。

 

 多くの同業の方に覚えがあると思うのですが、大学教員、メールがいっぱい来ます。期末のレポートを課したときなどには、もう引くほど来ます(自分の責任なのですが、昨年度180人くらいの授業でレポートを課して、いちいち受理の返信をしてたので、終盤ちょっと発狂しそうでした)。

 それで昨年度は大学着任2年目にして初めて修士論文生の指導をしたのですが、そうすると、学生が「序章(まだ直すかも).docx」とか、「第一章途中まで.docx」とか、「第二章修正版20191106.docx」みたいな添付ファイルを直しては直してはいっぱい送ってきますよね。それにこちらも返しているだけでメールがたまっていく。

 しかもメールなので、たまに件名振り直さないといけないかとか、宛名も省略すると何だか気持ち悪いとか、だけどいちいち書くのがめんどくさくてストレス、とか、そういうのも重なってきました。

 さらに、その間、それと関係なく来る返信しなければいけないメールもいっぱいきますよね。これはさすがにちょっとヤバいかもしれないな、と思ったのでした。

 

 前職で働いてたときは、受信トレイをTodoリストに見立てて、来た順にやっつけて、返信が終わったら予め作ってあったフォルダに移し替えて結了。というノリで処理できてたんですけど、大学に来てから、当たり前ですけどまず授業に行かなければならない、授業の準備もしなければならない、出欠も入力しないといけない、さらにその合間の時間に学生が相談に来る、ということで、まあそれでももっと忙しい先生はいらっしゃるのですけれども、デスクでメール処理可能な時間がガシガシ削られて行って、同じやり方ではどうも無理だなと気づき始めたこともあります。

 

 去年度の院生は頑張ってくれて、どうにか提出まで漕ぎつけました。私が主査を務めた指導院生は1人だったので何とかなったのですが、今年度は、昨年度3年ゼミで入ってきた学部の学生が卒論を書くことになる。ちょっとどう考えても同じやり方では破綻が見え透いている。

 なので、修論が終わるあたりから、院生と、メール以外の手段で連絡を取り合おう。かつ、ファイルを交換してもストレスにならないものがよい。と相談して、Slackの導入に至りました。

 友人にはbacklogもいいぞと言ってくれる人がいたのですが(ありがとうささくれ)、弊ゼミの特徴として、留学生が多くて、中国でもとりあえず動くっぽい。ということが確認できるツールにしたい、ということでslackに落ち着きました。学生とのコミュニケーションには、LINEとあとWechatも併用しておりまして、その辺も一元化しておきたいというのがありました。

 

 なお、導入にあたっていくつかの記事を参考にしました。

 2件目の文系ゼミで~に書いてあることは、自分のところでは当てはまらないものもあるのですが、非常に参考になりました。別に理系じゃなくても行けるんだなということと、あと本の貸し出しなどのチャンネルを作っておくのは非常に良いなということを学びました。

 あと、本を読みました。これはちょっと古い情報かもしれないのですが、参考になりました。

 こっちは導入し始めてから出た本で、目次だけしか拾い読みしていませんが、何か良さそうですね。

「明日からSlackを使って」と言われたら読む本

「明日からSlackを使って」と言われたら読む本

  • 作者:向井領治
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

運用

 

 一応3か月はやってみたというところです。メールの形式にとらわれないで情報だけ投げられるので、学生にこれ読んでおいてね。という文献リストをNDLオンラインからリンクを貼りつけたり、リサーチナビの「調べ方案内」を貼ってここを見ろ、と指示したり。

 チャンネルに貼って置けば、主に一人に向けて発した情報も、他の学生が参照して「へえそんなのあるのか」と、うっすら理解できる。そういう機会が結構大事なんじゃないかというのが一つありました。

 

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使っているslackの画面例

 

 今、ざっくり以下のようなチャンネルを設けております。

  • #general(使用のガイドライン、大学からの重要な通知等掲示用)
  • #random(雑談用)
  • #mailのひな形(学生に送る用)
  • #ゼミ連絡(学部・大学院等個別に)
  • #研究室図書の貸出
  • #就職関係情報(大学からもメールなどでお知らせがくるのですが、学生周知のためにここに貼り付ける)
  • #文献情報(読んだ本で面白かったのを)
  • #論文指導(学部・大学院別)
  • #調べ方のtips(データベース紹介など)
  • #ニュース
  • #保存庫(自分の論文のPDFを置いておいて学生に読ませる)

 

 増やし過ぎかなとも思ったのですが、こんなもののような気もします。無料版なので1万件までですが、あとから入ってきた人が過去の記事を遡って読めるのもいいと思いました。貼った情報が無駄にならない。

  まだやったことないですけど、日本史だったらみんなで翻刻的な作り方というか、史料を挙げておいて、それについてみんなでディスカッションしたり読みを言い当てたりするの、できそうに思います。

 

課題

 課題をあげるとすれば、学生の個別相談がDMで来ていて、なかなかゼミ全体の議論やrandomの会話が盛り上がらないので、担当教員からのお知らせ掲示板化していること。でしょうか。

 あと良くも悪くもLINEなどとは違って既読がつかないので「ちゃんと読んだ?」と思うことはあります。あえてそれを問わない緩さがいいツールなのは理解しているのですが。

 

 今年度はゼミ開始前に、メンバーの自己紹介を一言ずつ、ゼミ用のスレッドに書いてもらって相互に理解を深めました。

 まだ活発な交流が生まれているとは形容しがたい状態なのですが、今後テレビ会議で演習をするのなら、律儀に大学のLMSにリンクを貼るより、slack上にリンクを貼って運用したほうが楽だし、レジュメなど、事前にメンバーに共有するためにslackに送っておけ、と出来そうなので、その点はこれからかなという気がします。

 他の有効活用事例があったら参考にしたいので教えてください。

2019年に出た本で印象深かったもの

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図書館を辞めて大学教員になって2年目になりました。また私事でも色々ございました。そんななかで読んで考えさせられたもの、印象に残ったものなどをランダムに挙げていきます。お送りいただいたものでご紹介できないものもありますが、ご容赦ください。

 

 

漫画なのですが。今年ハマったものの筆頭は鬼滅の刃だと思います。大正時代を舞台にした鬼退治の剣戟なのですが、個性的な仲間との共闘、先輩や祖先から代々受け継いできた技や志の継承など、ちょっと往年の聖闘士星矢っぽさもあり、アラフォーも楽しめるような気がします。授業では導入に使いつつ、ちょっと違う大正の実像について知ってもらおうと試みたのですが、学生の食いつきが違いました。凄い人気なのを感じます。

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 あと漫画としてはこちらの昭和天皇物語も。原敬か本当になんともいえない役で出てきます。学生に貸しました。

昭和天皇物語 (5) (ビッグコミックス)

昭和天皇物語 (5) (ビッグコミックス)

 

 

図書館史関係でも色々あった一年でした。

まずは新藤さんのこちらの本が。あまり類書がないことを思うと意欲的な作品だと思うのですが、ちょっと現在の図書館サービスに引きつけ過ぎなのは気になりました。現代的な観点が大事なのは異論ないのですが、図書館業界の特殊用語を歴史上のものから現代に起きかえるより、わかりやすく説明するほうが生産的なのかな、と思いますす。あと図書館史の図式は何と言っても西洋の図書館発達史がモデルなので、それとの対比抜きで固有の「一国図書館史」は今日描きうるのだろうか、などとも考えてしまったのでした。

図書館の日本史 (ライブラリーぶっくす)

図書館の日本史 (ライブラリーぶっくす)

  • 作者:新藤透
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 図書館史イヤーといえば、こちらの小説も。帝国図書館を舞台としたものでこれだけのボリュームのあるものはおそらく初かと。エピソードは、業界通の人には周知のものも多そうですが、それ以外の部分の登場人物のやりとりとか素敵でした。

夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

 

 

ながく図書館に関わってきた竹内さんの『生きるための図書館』も印象深い本です。これ、「司書の仕事とは、一人ひとりの伸びる芽を、必要に応じてそっと支えることなのだ(p.213)」って言葉に感動してしまって。大学に移ってからも図書館に関わらせてもらっているのですが、忘れずに置こうと思いました。

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

 

 

 

歴史学関係では、歴史学者がやっていること、暗黙知を対象化して、いわゆる「みえる化」を推進しようといった趣の本がいくつか出揃ったのも今年の特徴だったかもしれません。私は触発されてスライド作ってしまいましたが、卒論の書き方を書いた本書は学生にも色々教えるのに使えそうです。

歴史学で卒業論文を書くために

歴史学で卒業論文を書くために

 

 

「なぜ学ぶのか」という問いかけですが、21世紀の『歴史とは何か』との評判に思わず頷いてしまうような、やはりこれも色々考えたい本でした。

なぜ歴史を学ぶのか

なぜ歴史を学ぶのか

 

 

このところ職業柄「歴史学的に考えること」の言語化を余儀なくされているのですが、『クレヨンしんちゃん』の「歴史」との向き合い方が大事だという話はこの本から教わって、それでAmazonプライム・ビデオで大人帝国の逆襲をしっかり見てしましました。

歴史的に考えるとはどういうことか

歴史的に考えるとはどういうことか

 

 

 與那覇さんの本。世代的に共感できることだらけなのですが、「歴史がおわるまえに」に続く述語を考えること、が読者に投げられた宿題なのだろうと思います。

歴史がおわるまえに

歴史がおわるまえに

  • 作者:與那覇 潤
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/09/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

明治思想史に関しては、恩師と後輩の本が出ました。学生時代から講義で聞いていた話がこうして形になったのをみると本当に影響受けてるんだなあとわかります。いずれも近代日本思想史の著作。長く生き、活動した人物の思想の全体を取り扱うことの難しさを考えさせられました。

三宅雪嶺 (人物叢書)

三宅雪嶺 (人物叢書)

 
<優勝劣敗>と明治国家 加藤弘之の社会進化論

<優勝劣敗>と明治国家 加藤弘之の社会進化論

 

 

 

影響ということでは国民国家論からの影響も深いわけですが、それともう一度向き合わせてくれた、牧原著作集の刊行からも恩恵を受けました。当時わかっていなかったことが一層クリアになる感じでした。

これは民衆思想史とはなんなのかということとも関わりますよね。

牧原憲夫著作選集 上巻: 明治期の民権と民衆

牧原憲夫著作選集 上巻: 明治期の民権と民衆

  • 作者:牧原 憲夫
  • 出版社/メーカー: 有志舎
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 
牧原憲夫著作選集 下巻: 近代日本の文明化と国民化

牧原憲夫著作選集 下巻: 近代日本の文明化と国民化

  • 作者:牧原 憲夫
  • 出版社/メーカー: 有志舎
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 

 

復刊で、このような民権運動家の描き方もあると教えてくれた本。とくにこう原本の史料出典に註を付けていく作業が半端じゃなくて圧倒されました。

花の妹 岸田俊子伝: 女性民権運動の先駆者 (岩波現代文庫)

花の妹 岸田俊子伝: 女性民権運動の先駆者 (岩波現代文庫)

 

 

こちらは、教育勅語体制の議論の枠組みの強さを相対化さつつ、教育経験という新たな概念でもって日本の教育史をまとめあげていく点に感動を覚えました。

増補版 民衆の教育経験: 戦前・戦中の子どもたち (岩波現代文庫)

増補版 民衆の教育経験: 戦前・戦中の子どもたち (岩波現代文庫)

 

 

教育に関しては、大学入試改革のあれこれで格差も問題になりました。本書を読み、重たいテーマなのですが、色々考えさせられました。

教育格差 (ちくま新書)

教育格差 (ちくま新書)

 

 

 

 

 

 

美術と文学に関しては何をおいても井田さんのこちらが。岩波新書の限界に挑んでる感じでもあり、かろやかな文体の中にこれでもかこれでもかと作品を読み解くための知見が披歴されていて、美術史というのは何て凄い世界なんだと、圧倒されっぱなしでした。

酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 (岩波新書)

酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 (岩波新書)

 

 

 宗教については大谷先生のこちらが。自分の研究とも重なります。大著ですけれども、読みました。高山樗牛日蓮主義に果たした影響力の大きさを指摘しています。

日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

 

 

 メディア史については佐藤先生の「流言」。メディア理論の復習もできます。

流言のメディア史 (岩波新書)

流言のメディア史 (岩波新書)

 

 

猪谷さんの。これも良い本で、フィルターバブルの問題や、広告料の話など、とくに一年生たちの基礎ゼミなどで教えている内容ともつながっていて、情報活動の中で知っておくべきことがたくさん書いてあります。

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

 

 

対象とする時代は専門外だけれど、日本史の前近代の新書や文庫でそれまでの認識を改めさせられた本として。 とくにハードボイルド室町時代の文庫化からは大いに刺激されました。

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)

 

 

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

 

 

また、文庫に入ったものでいえばこちらも大きなものです。岡先生の著作大量文庫化です。解説もすごいです。明治150年を経て、あらためて日本近代史を捉え直す好機とも言えましょう。

近代日本の政治家 (岩波文庫)

近代日本の政治家 (岩波文庫)

 
明治政治史 (上) (岩波文庫)

明治政治史 (上) (岩波文庫)

 
明治政治史 (下) (岩波文庫)

明治政治史 (下) (岩波文庫)

 
転換期の大正 (岩波文庫)

転換期の大正 (岩波文庫)

 
山県有朋: 明治日本の象徴 (岩波文庫)

山県有朋: 明治日本の象徴 (岩波文庫)

 

 

 

明治150年に続いて近現代史、昭和史の入門書によさそうな新書も相次ぎましたね。改元という一つの時代の区切りが作用しているのでしょうか。 

 

日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)

日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)

 
論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

 

 

 

たくさん書いておられる岡本氏の著作のうち、以下から示唆を得ました。日中の思想交流をテーマにする指導学生がいるので、そのうち一緒に読んでみたいとも思います。

増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫)

増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫)

 

 

 タイトルが良いですが、小島氏の日本史本2冊も文庫化しました。日本史を語るということがどういうことなのか。その説明の仕方にも注目しながら、自分だったらどうするか考えたりしています。 

父が子に語る日本史 (ちくま文庫)

父が子に語る日本史 (ちくま文庫)

 

 

 

文章術と読書をめぐるライフハック的な本も。いくつか見たなかでは以下のものがまあまあ良かった気がします。

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

 
読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

 
これなら書ける!  大人の文章講座 (ちくま新書)

これなら書ける! 大人の文章講座 (ちくま新書)

 
超速読力 (ちくま新書)

超速読力 (ちくま新書)

 

 

あと最後に、ちょっとびっくりしたのはこちら。授業で明治の終焉と乃木のことを話したついでに乃木坂の話題に触れたのですが、ファンを自認するライターさんがその歴史をかなり掘り下げて考察していました。

 

 

乃木坂ー歴史と謎をめぐる旅

乃木坂ー歴史と謎をめぐる旅

  • 作者:藤城かおる
  • 出版社/メーカー: えにし書房
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: 単行本
 

 

日本史前近代史(古代から近世まで)の勉強に読んだ参考文献まとめ

春学期講義が終わった。今期は日本史の概論で前近代も担当することになったので、参考にした本をまとめておく(ただし全部ではない)。わかりやすい説明の仕方を求めた結果、ついつい新書や概説が中心になってしまって、本格的な研究書には手が出せなかった。来年度以降さらに精度を高めたい。

※なお、言い訳がましくなりますが、筆者の専門は明治以降の日本近代の思想史であって、前近代のほうはこれまでなかなか勉強もできておりませんでした。その点でかなり恥ずかしい内容ですが、あれも読んだ方がいいぞというご意見をいただければ幸いと思い、こちらに掲載いたします。

 

私、毎年こんなこと考えていて、高校日本史の学び直しでもほぼ一年前にこんな記事を書いているので良かったらあわせてご覧ください。

高校日本史の学び直しに向けて今何ができるだろう - みちくさのみち

 

 

授業で扱うので、通史に関しては、できるだけ平易な説明のものを参考にしたく、岩波ジュニア新書の日本の歴史の前近代編をざっと読んだ。 

日本社会の誕生―日本の歴史〈1〉 (岩波ジュニア新書)

日本社会の誕生―日本の歴史〈1〉 (岩波ジュニア新書)

 
飛鳥・奈良時代―日本の歴史〈2〉 (岩波ジュニア新書)

飛鳥・奈良時代―日本の歴史〈2〉 (岩波ジュニア新書)

 
平安時代―日本の歴史〈3〉 (岩波ジュニア新書)

平安時代―日本の歴史〈3〉 (岩波ジュニア新書)

 
武士の時代―日本の歴史〈4〉 (岩波ジュニア新書)

武士の時代―日本の歴史〈4〉 (岩波ジュニア新書)

 
戦国の世―日本の歴史〈5〉 (岩波ジュニア新書)

戦国の世―日本の歴史〈5〉 (岩波ジュニア新書)

 
江戸時代―日本の歴史〈6〉 (岩波ジュニア新書)

江戸時代―日本の歴史〈6〉 (岩波ジュニア新書)

 

岩波新書の「シリーズ日本古代史」「シリーズ日本中世史」「シリーズ日本近世史」も出来たら通読したいところ。

 

 

古代史・中世史に関してはちくま新書の講義シリーズで最近の動向を学んだ。

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)

 
中世史講義 (ちくま新書)

中世史講義 (ちくま新書)

 

…はやく近世史も出てほしい、とちょっと思った。

 

また、元放送大学テキストの『大学の日本史』シリーズも参照した。

大学の日本史 2―教養から考える歴史へ 中世
 
大学の日本史―教養から考える歴史へ〈3〉近世

大学の日本史―教養から考える歴史へ〈3〉近世

 

史料に関しては、『日本史史料』 の各時代のものも。「生類憐みの令」とかはこちらからコピーして授業で配ったりもした。

日本史史料〈3〉近世

日本史史料〈3〉近世

 

史料に関しては現代語訳があるこれも。

もういちど読む 山川日本史史料

もういちど読む 山川日本史史料

 

 

それから、近世史に関しては、吉川弘文館の「日本近世の歴史」シリーズが、とても参考になった。少し復習をするにつけ、近世政治史についてしっかりしたイメージが持てていなかったことがわかり、時代区分の仕方を含めて(例えば綱吉から吉宗までを「養子将軍」とする、田沼意次の時代を「山師の時代」と規定する、など)非常に勉強になった。 

日本近世の歴史〈2〉将軍権力の確立

日本近世の歴史〈2〉将軍権力の確立

 
日本近世の歴史〈3〉綱吉と吉宗

日本近世の歴史〈3〉綱吉と吉宗

 
日本近世の歴史〈4〉田沼時代

日本近世の歴史〈4〉田沼時代

 
日本近世の歴史〈5〉開国前夜の世界

日本近世の歴史〈5〉開国前夜の世界

 
 

 

あと、配布プリントを作る際に図版の多いつぎのものも図書館等で活用させてもらった。

ビジュアル・ワイド 江戸時代館 第2版

ビジュアル・ワイド 江戸時代館 第2版

 
日本全史(ジャパン・クロニック) (クロニック・シリーズ)

日本全史(ジャパン・クロニック) (クロニック・シリーズ)

 

 留学生も多いので、かえって子供向けのほうが解説の日本語がわかりやすくて良いのである。 

その他個々のものについては以下の通り。

原始・古代

新しい研究の成果をどういう風に取り入れて話すか、難しさを感じた。

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

 
天皇の歴史1 神話から歴史へ (講談社学術文庫)

天皇の歴史1 神話から歴史へ (講談社学術文庫)

 

 対外関係史、「東アジア」という視点を打ち出した研究が増えている印象。

古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書)
 
倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)

倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)

 
東アジア仏教史 (岩波新書)

東アジア仏教史 (岩波新書)

  
律令制とはなにか (日本史リブレット)

律令制とはなにか (日本史リブレット)

 
蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)

藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)

 
院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)

院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)

 

 

 

中世

武士の成立論などについて中世史専攻の人に教えてもらいつつ作った。石井進先生の本もたくさんあげてもらったがまだ読めていない。

 

武士の日本史 (岩波新書)

武士の日本史 (岩波新書)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

 
承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

 
中世は社会と法というのがポイントになるんだなと思い、人に教わりながら少しずつ読んだ。
 
徳政令――中世の法と慣習 (岩波新書)

徳政令――中世の法と慣習 (岩波新書)

足利義満 - 公武に君臨した室町将軍 (中公新書)

足利義満 - 公武に君臨した室町将軍 (中公新書)

 

 中世の人の法については、清水氏の本は刺激的だった。

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

 

 刷新が進む信長像についても。

織田信長 (ちくま新書)

織田信長 (ちくま新書)

戦国大名と分国法 (岩波新書)

戦国大名と分国法 (岩波新書)

 
世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

 

 

マンガだけれど、室町時代のことならこれもよかった。

 近世

全集日本の歴史の議論からは色々と示唆を得た。概説は出るたびに読んでおかないと、どんどん置いて行かれるのだなと痛感した。

 

江戸時代の官僚制 (AOKI LIBRARY―日本の歴史 近世)

江戸時代の官僚制 (AOKI LIBRARY―日本の歴史 近世)

 
徳川の国家デザイン (全集 日本の歴史 10)

徳川の国家デザイン (全集 日本の歴史 10)

 
「鎖国」という外交 (全集 日本の歴史 9)

「鎖国」という外交 (全集 日本の歴史 9)

 
鎖国」について話をするついでに「柳川一件」について話したら結構学生も衝撃を受けたようだった。
江戸武士の日常生活 (講談社選書メチエ)

江戸武士の日常生活 (講談社選書メチエ)

 
徳川社会のゆらぎ (全集 日本の歴史 11)

徳川社会のゆらぎ (全集 日本の歴史 11)

 
本居宣長: 近世国学の成立 (読みなおす日本史)

本居宣長: 近世国学の成立 (読みなおす日本史)

 
天皇の歴史6 江戸時代の天皇 (講談社学術文庫)

天皇の歴史6 江戸時代の天皇 (講談社学術文庫)

 
旧事諮問録 上―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-1)

旧事諮問録 上―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-1)

 
旧事諮問録 下―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-2)

旧事諮問録 下―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-2)

 
新しい江戸時代が見えてくる: 「平和」と「文明化」の265年

新しい江戸時代が見えてくる: 「平和」と「文明化」の265年

 
開国への道 (全集 日本の歴史 12)

開国への道 (全集 日本の歴史 12)

 
松平定信―政治改革に挑んだ老中 (中公新書)

松平定信―政治改革に挑んだ老中 (中公新書)

 

 近世思想についてはほかにも。

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)

 

 

2018年に出た本で印象深かったもの 増補

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2018年は図書館員から大学教員への転職などがあり、また近親者を見送ったり、個人的には大きな変化、別れのあった一年でした。そんななかで読んで考えさせられたもの、印象に残ったものなどをランダムに挙げていきます。お送りいただいたものでご紹介できないものもありますが、ご容赦ください…。

 

オッペケペー節と明治 (文春新書)

オッペケペー節と明治 (文春新書)

 

以前研究会などでも報告を伺っていたもの。明治時代にあって、ある時期に流行りだした歌が、 全国的にあちこちで歌われるようになっていく様を、メディア史的にどう論証できるか?という非常に興味深いテーマ。新聞史料の調査方法など、なるほどと思うテクニックも紹介されており、初学者に参考になるのではないか。永嶺氏は近刊で『リンゴの唄』にも取り組んでおられる。

「リンゴの唄」の真実 戦後初めての流行歌を追う
 

 流行歌のメディア史として。

 

知性は死なない 平成の鬱をこえて

知性は死なない 平成の鬱をこえて

 

復活の書。扱っているテーマは重く、與那覇さんと入れ替わるように大学で教えるようになった今、ここにある問題については、考えながらちっとも解決もしていないのだけれど、おかえりなさい、という気持で本書に接した。

 

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

 

大学で教えるようになって考えることが増えたのだけれど、そのなかで接した一冊。大学の勉強って、英語がちょっと苦手だからとか、歴史のうちのある時代だけ弱いからとかサプリのように足りないものを補っていけば、それでよいのかという問いかけは、わたしには刺さっていて、授業しながらよく反芻する。

 

 よい評伝と言うのは断片的な知識を持っている対象について適切な全体像を示してくれるものだと思うけれど、まさにそんな一冊。「黄禍論」演説をぶち、日本の世紀転換期の留学生たちからやたら嫌われていた皇帝が、何でそういう思想に至ったかを解きほぐしてくれている。第一次世界大戦後、あちこちで王室が廃されていくなかで、同じ時代に生きた他の元首との比較も、考えさせられた。

 

日本思想史の名著30 (ちくま新書)

日本思想史の名著30 (ちくま新書)

 

 留学生と接するようになって日本の思想・文化の全体像についてかなり意識が向くようになった。彼ら/彼女らが発するとてもステレオタイプな日本文化イメージに、思想史の研究はどう立ち向かっていけるのか?そういうときに学生に勧めたい本だと思う。

 

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

 

 春から何人もの学生と知り合って話してみてとくに印象的だったのがK-POP人気の高さだった。それで自分でも少し知りたくなって読んだ本。音楽や文化の力が反目を止めるかもしれないことを信じている著者のあとがきに少し胸打たれた。

 

 来年に向けて近代の天皇に関する本の刊行も相次いだ一年だった。

近代天皇制から象徴天皇制へ―「象徴」への道程

近代天皇制から象徴天皇制へ―「象徴」への道程

 著者のお仕事は戦後のさまざまなメディアを駆使したものが多いが、こちらは大正期からの長いスパンで思想史的に捉えようとされていて勉強になる。

 

天皇の近代―明治150年・平成30年

天皇の近代―明治150年・平成30年

  共同研究の成果として、さらに長いスパンから、江戸から天皇の近代を捉えようとしたものが本書。一つ一つの論考の密度が濃くてかんたんにまとめられないが、比較的若い書き手の人まで研究を進められていることに感銘を受けた。

 

武士の日本史 (岩波新書)

武士の日本史 (岩波新書)

武士についてその起源から説き起こすもので、近刊の桃崎氏の新書とも響きあう。

これから、武士のルーツをめぐって学会の大きな論争が起こるかも?などと予想。中世期の戦乱も相変わらず色々な研究がでているようだし。高橋氏の新書では、平氏政権や織豊期も幕府でいいんじゃないの?という指摘には、凝り固まっていた自分の発想を大いにゆさぶられた。

 

前近代の歴史について、さっきの武士の本もだったのだが、自分の常識や思い込みが覆されるような一冊に出会うことが多かった。大胆な通説の見直しが進んでいるということなのだろうが、この本もその一つ。買ったのはタイトルに惹かれたからで、とくに日本と海外との交渉を知りたいからだったのだが、帯の、なぜ日本はスペインに植民地化されなかったのか、の答えはやっぱり衝撃で、マジかよと思ったのだった。ぜひ本書を。 

日本史の関心は近年特に高いと思うのだが、それに答えうる1冊。古代から現代まで、いくつかの論点から歴史の評価を考えるもの。コンパクトにまとめるのは大変だったのではと思うものの、読み応えはとてもある。 

 

 

一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

 まさにルネッサンス。文章がうまくて感服した。テレビに出てた芸人さんを捕まえて無名は失礼だろうけれども、歴史家が無名に近い人物の伝記を描き出すときにどんな挿話を集めるかということを考えたりもしながら読んだのだけれど、とにかく面白かった。

 

授業するようになって、人に本を勧めるということを、図書館員時代と違った形で考え始めた頃に読んだ本。いろんな本との出会い方はある。勧めたけどうまくいかなかった事例から多く学べるようにも思った。

 

 

 レポートの書き方を指導する授業の参考文献として。ふだんの授業では慶應の『アカデミック・スキルズ』を利用し、『レポートの組み立て方』や『論文の教室』なども併用しているのだけれどそれよりもわかりやすいかもしれないと思った。

 

「甲子園」の眺め方: 歴史としての高校野球

「甲子園」の眺め方: 歴史としての高校野球

 

執筆者のお一人、黒岩さんからいただいたもの。高校野球の歴史って史学概論の教材に結構良いのではないか?という編者のコメントが載っているが、まさに。スポーツ用品店からつながっていく「球友交際」をはじめとして、一定以上の期間雑誌などが残っていれば、歴史研究者はこのような切り口からも歴史像を結べるのだぞというお手本を見せられたような気分。植民地における中学校の野球史についても全然知らず、本当に勉強になった。

 

陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)

陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)

 

 後生畏るべし・・・ときっといろんな人が思ったであろう新書。手堅いしバランスも目配りも聞いている気鋭の若手研究者による希有な人物評伝。外交家だけでない、陸奥宗光という人の政治家としての多彩な側面を明らかにする。裏テーマで、陸奥の弟子である原内閣100年があったのかもしれないなとは終章を読むと思う。史料上、女性名に「子」をつけるのとつけないのは本文の記述ではどちらがよいかなどの細かい指摘に著者のお人柄(なのだろうか)がにじみ出ていて面白い。

 

五日市憲法 (岩波新書)

五日市憲法 (岩波新書)

 

 

 「明治150年」ということで、明治関連の本もたくさん出た。なんとなくそれぞれの持ち場で、お祭り騒ぎに便乗するするのではなく、研究者としての意地をかけて明治史の着実な成果を出そうという研究者が周りに多かったように思うのが、誇らしくもあり、頼もしかった(自分の手柄ではないが)。

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

 

昭和史講義に続く、明治史の入門書。人物編も出て、いよいよ次は大正編なのだろうか?

はじめての明治史 (ちくまプリマー新書)

はじめての明治史 (ちくまプリマー新書)

 

 明治史講義のさらなる入門書。講義形式の平易な語り口で、だけど内容は濃くという新書。意識されているのかわからないが、『それでも日本人は戦争を選んだ』とどこか響きあっている気がする。カバーデザインが「明治」の「明」だって、アマゾンへのリンクを貼って気がついた。

 

江戸東京の明治維新 (岩波新書)

江戸東京の明治維新 (岩波新書)

 

論文などを読んでいるとしばしば鳥肌が立つ史料というのに出会うのだが、本書に登場するかしくさんの儀一件の史料、凄まじくて何も言えなくなってしまった。

「健康で文化的な最低限度の生活」というドラマが流行った2018年に、明治も生きづらかったということを様々な角度から説明した新書。大学の講義を元にされているらしいが、これ以上に平易な松方デフレの説明は寡聞にしてしらず、様々な文体を駆使する著者の技量に驚嘆のほかなかった。あちこちで学生に勧めまくっていた。

 

家(チベ)の歴史を書く (単行本)

家(チベ)の歴史を書く (単行本)

 

 12月に入ってからようやく読んだものだが、強く印象に残った。気鋭の社会学者が在日コリアンである家の歴史を、家族への聞き取り調査をもとに再構成したもの。社会学歴史学との方法論の違いなども序論で展開されているが、語られている内容、それを構成する目線、ときどき、整理しきれない生の会話を読者に伝えてくる文体、こんな書き方があるのかと参考になった。伯父や伯母などたくさんの親類を見送って、「もっと話を聞いておけば良かったかな」と思っていたところでもあり、自分の「家」の歴史は、歴史学の方法でならどのように書き出せるのだろうと、本書を閉じてからずっと考えている。

 

 今年、凄い本がいっぱい出たのではないでしょうか。

 

番外

自分が関わった本として …

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

 
現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

 

 

その他、どうしても追加したかったもの

上記のエントリを書き上げた後で読んだ本で、やっぱりこれは2018年の本として書きとどめて置かねばならぬ、と思ったので追記。

 

やや黄色い熱をおびた旅人

やや黄色い熱をおびた旅人

 

超売れっ子作家だった1997年に、黄熱病のワクチンを受けながら世界の紛争地帯を歩いて取材し、出会った人たちの記録。原田氏ならではの視点と文体で綴られる、戦争のなかにいる人々の暮らし。

「戦争」はこんなにも具体的であるのに、「平和」とは何と抽象的なものだろう(p.57)

 

私は原田宗典氏の作品では「すれちがうだけ」が圧倒的に好きなのだけれど、たぶん原田さんは、自分の人生とあんまり関係ないすれ違うだけの人に流れている人生をすれちがった刹那のなかに見つめて考え続けてしまう人なのだと思う。

 

しょうがない人 (集英社文庫)

しょうがない人 (集英社文庫)

 

 

紛争地域を歩いて取材した21年前の原稿の「あとがき」に迷いながら、何かを感じてもらえたらそれでいいという著者の姿に、感銘を受ける。

 

近代日本の留学生の歴史に関する文献リスト

 我が家にテレビがないので「西郷どん」は視聴できていないのだが、8月26日の放送では、長州ファイブや薩摩スチューデントについて言及があったようだ。

長州ファイブ [DVD]

長州ファイブ [DVD]

グローバル幕末史 幕末日本人は世界をどう見ていたか

グローバル幕末史 幕末日本人は世界をどう見ていたか

 春学期に担当した、日本と欧米の「文化交流史」に関する歴史の講義で、私も長州ファイブなどを取り上げた。

 この授業では幕末に国禁を冒して渡英した人々から始まる「留学生の歴史」をテーマに、あれこれと調べつつ試行錯誤しながら話してみたのだが、けっこう改善の余地があったので、あとで思い出して修正するために、まだ仮のリストではあるが、講義で使った参考文献をあげておく。すべてを網羅しているわけではないが、もし何かあれば、授業改善のため情報をお寄せいただけると幸いである。

 留学生の通史に関しての基本文献には

近代日本の海外留学史 (中公文庫)

近代日本の海外留学史 (中公文庫)

 幕末の幕臣たちの渡航者、長州ファイブ、薩摩スチューデントたちについては、上記文献以外に

幕末オランダ留学生の研究

幕末オランダ留学生の研究

森有礼 (人物叢書 新装版)

森有礼 (人物叢書 新装版)

 留学先で困難な状況に立ち会ってもメンタルが強すぎる高橋是清などの場合

 岩倉使節団については、『米欧回覧実記』に書かれた場所を実際に見聞しながら物された

岩倉使節団『米欧回覧実記』 (岩波現代文庫)

岩倉使節団『米欧回覧実記』 (岩波現代文庫)

 をはじめ多数の文献がある。

 岩倉使節団に同行した女子留学生・津田梅子については

津田梅子の社会史

津田梅子の社会史

 明治十年代に帰朝して法律知識を持ち帰ってくる官僚たちについては、

 中江兆民森鴎外夏目漱石をはじめとする個々の人物について。

和魂洋才の系譜 内と外からの明治日本 上 (平凡社ライブラリー)

和魂洋才の系譜 内と外からの明治日本 上 (平凡社ライブラリー)

あめりか物語 (岩波文庫)

あめりか物語 (岩波文庫)

 姉崎正治「洋行無用論」に関して、その発端になったドイツの黄禍論について。

黄禍物語 (岩波現代文庫)

黄禍物語 (岩波現代文庫)


 留学に限られないが、文化交流の歴史を推進する団体について。

 そのほか、日本からの文化の「発信」について考えさせられた本として。

その他近現代における国際交流の基本的な通史として。

 戦後だと

逆に、日清日露戦争のあと、海外から日本にやって来た留学生たちの動向については授業でほとんど取り上げられなかったので、今後の課題ではある。

高校日本史の学び直しのための文献ガイド

※2018/8/23ちょっと文献追加

 図書館を退職して大学に移って日々感じていることの一つに、高校で日本史を取らずに大学に入って、後で日本文学やその他の授業でやっぱり日本史の知識がいるんじゃないかと苦しんでいる子の存在がある。日本史の担当教員になった以上、なんとかこういうギャップを埋めてあげたいと思う。

 そんな関心から手に取り、目を通した本を並べてみる。

教科書・通史のリバイバル

 最近は社会人にも日本史の学び直しがブームのようで、教科書が新しい形で出ている。アナウンサーが読んでくれる本なども出ている。

もういちど読む山川日本史

もういちど読む山川日本史

 
もういちど読む山川日本近代史

もういちど読む山川日本近代史

 

 また、新書もある。

やりなおし高校日本史 (ちくま新書)

やりなおし高校日本史 (ちくま新書)

 

 ただ、硬派で良いといえば良いのだが、最近の日本近代史系の新書に関して言うと、テーマのせいなのか微妙に内容難しくなっているようにも感じる。

 その他著名講師によって1冊にまとまっているものもある。この辺、問題意識を持った先生の活躍がすごい。

 こうして、ドラマなどの影響もあるのか、日本史を一通り理解したいという欲求は高いみたいである。書店に行くと結構この手の本が目に付く。

 

テーマ別だから理解が深まる 日本史
 

 

 びっくりしたのは雑誌でも特集が組まれていたりすることだ。

 とはいえ、大学の日本史と高校の日本史は、同じではない。高校日本史が基礎となる一通りの知識について教科書をベースにして教えているとしたら、大学の日本史は教科書の知識の重要さや記述バランスの妥当性を問い直し続けていることになる。

 

 「発展的な内容」だとか「応用的な内容」と言ってしまえば言えるが、大学でそれを教えないで、高校日本史の復習を大学でやるというのも変な話になってしまう。

 日本史の高大連携の壁は、思っているよりも意外と高い。

 その辺を架橋しようと試みた大学向け日本史の本もあるが、独学で読もうとすると難しいのではないか。

 そうすると勢い、補習や復習の形で、各自で学び直しのための工夫というのも求められるのだが、これも難しい。

動画で

 時間がある人ならYoutubeで日本史の講義をしてくれているムンディ先生のような高校の先生もいる。ほかにも高校日本史ならNHKの高校講座の日本史サイトでも紹介されていたりする。

 テレビなので、が覚的に入ってくる情報は非常に優れており、印象に残りやすい。最近世界史についての本も出た。

 
※2023年7月追記※
なおその後、ムンディ先生は日本史の本も出している。ネットだと高評価のようである。
私もわかりやすいとは思ったが、あえて政治史中心!で整理しているのが、ちょっと気になる。戦後の日本の歴史学界が頑張って探求してきた政治史以外の研究成果、経済史や文化史や社会史の側面が教科書に盛り込まれ、その結果話の流れがややこしいというわけだが、本書はまさにその部分を大胆にごっそりカットしている、ということになる。
よって、社会人が日本史の学び直しをするのには良いのかもしれないが、「高校で日本史未選択者が大学の日本史系の授業にギリギリついていける程度の知識を提供する本」という観点からすると、大学で扱う日本史のトピックの大半を捨てていることになるので、目的によってはあまり勧められないかもしれない。

※ここまで追加※


高校の学習参考書なら

 学び直しに向けて、高校の学習参考書を見るという手はある。語学春秋社の実況中継シリーズは人気が高い。ただ、ボリュームが多くてその分値段も張る。

石川晶康 日本史B講義の実況中継(1)原始~古代 (実況中継シリーズ)
 

 私が高校生だった1990年代後半は菅野の日本史実況中継があって、ノート綺麗に作ることをとても推奨していて、大学で日本史をやろうと思ったものの大して知識がなかった私は素直にノートを作っていたのだった(3色ボールペンにはまっていて、超重要事項は赤、やや重要なものを緑、人名だけは鬼門と思っていたらしく区別するために青を使っていた。いまだにその名残がある)。

 

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 最近見返していたら、時期区分など依拠している学説は古いものの*1、基本情報はそんなに変わらないし、まだ使えるんだなと改めて思ったりしたところだった。

 『自由民権運動』の最新動向は松沢さんの新書を読むと良いと思う。

 


 佐藤優氏が勧めている学習参考書も多いらしく、最近は書店に帯がついていたりする。

 高校時代、日本史を極めようというやつが『詳説日本史』などを手に取って周りを圧倒していたが、あれも参考書としては良い本だと思う。

詳説日本史研究

詳説日本史研究

 

 復習するのに、内容では、何といっても一番教科書が良いのだが、文字が多すぎてなかなか頭に入ってこないという人もいるだろう。

 それに、教科書の内容もだいぶ変わってきている。


ビジュアル系

 歴史研究者が本気を出して作ったビジュアル系解説は、良いのだが、高い。図書館で見るか、個人で買うのはなかなか難しいだろう。

 歴史漫画も馬鹿にはできない。ただやっぱりセットで揃えるのは、「ちょっと日本史の勉強し直しをしたい」というニーズに対して割高かもしれない。

 各社の比較サイトまであるが、近現代が充実しているので、個人的には集英社推しだが、この辺は好みかと思う。

 私の場合、とくに留学生には、高校の副読本の「図説」という資料集を買うように勧めている。これはビジュアルが豊富だし、索引も年表もある。元号もだが、とりわけ旧国名などは地図を見なければ留学生にはハードルが高いはずだ。慣れるとすぐ物足りなくなるだろうが、これに慣れないとその先はけっこうつらいはずである。高校時代に買った(買わされた)人は引っ張り出すといい。 

 なにより、学習参考書、学校の副読本ということで、この情報量で千円前後というのがありがたい。



人物を攻略する

 日本史の知識がないと、専門の本を読んでいくのはけっこう苦痛である。私にも覚えがある。

 

 そしてその苦痛のたいがいの原因の8割近くは、人名に心当たりがないということになると思う。大学でいきなり学ぶ日本史の本はたいがい、登場人物が多すぎるのである。知らない人がどこで活躍していったという話を聞いても、頭には残らない。学生からの反応でも、一人の人物の意外なエピソードみたいなのを雑談で話してもらうと面白くて興味が持てそう、というコメントがあったりした。

 もちろん、2割くらいは特殊な歴史用語の可能性があるが、そのような言葉の場合は括弧書きや注で補足説明が入っていることも多い。

 だから、人物がわかれば歴史もそんなに怖くないということになる。

日本史人物辞典

日本史人物辞典

 

 自分の場合、入門書というか概説書を読んで、そこに出てくる人名の脇に傍線を引いてノートに書き写し、さらにそのノートをもって図書館に行き、『国史大辞典』を引き続けながら重要事項を抜き書きするという方法で乗り切ろうとしていた(抜き書きにしていたのは全文書写すると訳がわからないのと、長すぎたからだ)。私が使っていたのは小学館の日本の歴史シリーズだった。

大系 日本の歴史〈13〉近代日本の出発 (小学館ライブラリー)

大系 日本の歴史〈13〉近代日本の出発 (小学館ライブラリー)

 

 ネットの普及と言っても携帯で何かできるわけではなかった前世紀末の話であるが、人名を英語の単語帳のようにB6サイズの京大式カードに書き取って履歴とか参考文献のメモを作っていた。

f:id:negadaikon:20140707221455j:image

 しかし今なら人物履歴事典のように必要な情報がコンパクトにまとまっているものもあるし、Wikipedia日本大人名辞典が入っているコトバンクで引いたってかまわないわけだ。

日本近現代人物履歴事典

日本近現代人物履歴事典

 

 それをevernoteなどのノートに入れて自分用の人名辞典を作っておけばいつでも参照できる。

 国立国会図書館の「近代日本人の肖像」を眺めて顔を覚えるのも一つの方法だろう(著作権切れが判明している写真を収集しているので、どちらかといえば政治家が多く、学者や文化人には載っていない人も多いのだけれど)。



入門用の概説書とその他のツール

 もしこの方法で歴史の基礎体力をつけるなら、上のように文庫化している概説書のシリーズが良いと思う。岩波新書のシリーズもありだが、人によってはちょっと敷居が高いかもしれない。そのような場合には、岩波ジュニア新書の日本の歴史などもおすすめである。

日本の歴史21―近代国家の出発 (中公文庫)

日本の歴史21―近代国家の出発 (中公文庫)

 
幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

幕末・維新―シリーズ日本近現代史〈1〉 (岩波新書)

 
明治維新―日本の歴史〈7〉 (岩波ジュニア新書)

明治維新―日本の歴史〈7〉 (岩波ジュニア新書)

 

 なお、大学の授業に出席するときには、特別講義や演習など専門性の高い科目に出るときにはハンディな日本史辞典を持参するよう指導されていた(山川の高校の用語集で手に負えるレベルではなかったのだ)

日本史辞典

日本史辞典

 
山川 日本史小辞典

山川 日本史小辞典

 

 さらに近代史の場合、人物の先輩・後輩についても抑えておくとよい。生年や出身と手がかりに並べ直しても良い。派閥も重要である。出身大学の縁で友達関係になっている場合だってある。木戸孝允伊藤博文はどっちが年上なのか、パッと見てわからないところから歴史を学び始める人はいる。

 あとは、放送大学のテキストは密度が非常に高いので、勉強しなおしにはうってつけかもしれない。

日本の近代―国民国家の形成・発展と挫折 (放送大学教材)

日本の近代―国民国家の形成・発展と挫折 (放送大学教材)

 

 加藤陽子先生と高校生の対談…も、学び直しの一助となるだろうか?

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

 

 一冊で近代史をということなら手に取りやすいのが最近の本ではこちらを勧める。

国民国家と戦争 挫折の日本近代史 (角川選書)
 

 教員の立場からやるとしたら…Vtuberは難しいとして、スライドなどの公開とかは出来そうだろうか。日本史の苦手な人に届けたいと思っても、結局日本史好きな人しか見ないという結果だと嬉しさとさみしさが半ばするのだが。

最近出た中公新書の『日本史の論点』も、巻末に色々な文献ガイドがあってありがたい。

 ほかにもおすすめがあったら教えていただきたい。

*1:写真にうつっているところで言うと、士族民権とか豪農民権とかいう区分は、私が高校生だった90年代でもちょっと古い学説になっていたと思うのだが、大学に努める研究者の論争の最前線と、高校の受験業界で定着するのとではタイムラグがあるのだな…と思った次第。でも2018年でも豪農民権でググると結構な情報が出てくるので、一度定着してしまった受験向けの知識の体系化は、そう簡単には変わらないという事なのかもしれない

日本文化論を学ぶ人に勧める本のリスト

 今年、本務校の大学で、「日本文化論」という講義を担当した。授業のレポートも締め切ったので、講義中で取り上げた本、発展的に知りたい人におすすめの本、本当は取り上げたかったのだが時間的制約で断念した本、などをまとめておく。不十分なリストであるが、検討し直しのための材料としたい。15回の授業でこんなに紹介するのはシビアだったはずだが、最後まで付き合ってくれた受講生に感謝したい。

 最近、書店の棚にも色んな日本文化論本が増えている(ピンからキリまで)ので、このリストも、受講生が復習に使ってくれたり、何かの参考になるのであればありがたい。

 なお、「日本文化」についてではなく、あくまで「日本文化論」の文献リストであることをお断りしておく。

総説

 

 近年でも、日本文化論の概説書には事欠かない。そのなかのいくつかは名著とされているものもある。

 南博の調査した文献だけでも、全部読むのは大変で、授業で取り上げるのも難しいだろう。

日本人論―明治から今日まで (岩波現代文庫)

日本人論―明治から今日まで (岩波現代文庫)

日本文化論キーワード (有斐閣双書KEYWORD SERIES)

日本文化論キーワード (有斐閣双書KEYWORD SERIES)


 また、「日本文化」なんて定義のしようがないんだし、あたかもすべての日本人に妥当するかのような特徴を取り上げても実証的でないので、「日本文化論」というのは基本的にはいかがわしいものであるという意見も結構ある。

 そもそも、日本文化論が対象とする日本人の定義だって簡単ではない(例えばハーフやクォーターの場合はどうするのか、東日本と西日本の文化的な違いはどうするのか、など)。だから血液型診断のように、いちいち日本文化の特質を取り上げて過度に共感したり、真に受け過ぎるのは考えものだ…というのが、1990年代以降、国民国家批判が盛んななかで大学の人文学を一通りかじった人の間で、比較的主流派の意見になっていると思う(私はそう思うのだが、どうだろうか。)

国境の越え方―国民国家論序説 (平凡社ライブラリー)

国境の越え方―国民国家論序説 (平凡社ライブラリー)

 もちろん国民国家批判より以前から、1970年代以降に急増した日本文化論の複数の出版について、「大衆消費財」であって学問的な議論でないとバッサリ切って捨てたハルミ・ベフの本などがあった。

 近年でも『日本文化論のインチキ』などのように、ある論者が日本の特徴と言っているものは別に他の国でも普通にみられるものであるということが続々と指摘する本も出ており、「日本文化論」のもっともらしさというのは、急速に意味を失いつつあるし、「創られた伝統」に対して、懐疑的なまなざしも向けられる。

イデオロギーとしての日本文化論

イデオロギーとしての日本文化論

日本文化論のインチキ (幻冬舎新書)

日本文化論のインチキ (幻冬舎新書)

「日本の伝統」の正体

「日本の伝統」の正体

 一方で、「日本は〇〇の国」という明確な答えを求める傾向が強いのはむしろ留学生であるということが、授業をしてみて初めてしみじみわかったことでもある。それはまあ、日本の文化に興味があって日本に留学して来たのに、来た先で日本文化論なんか信じるに足らないというメッセージを私みたいな教員がしたり顔で話していたら、普通はショックを受けるか、腹が立つだろう。

 自国の文化についてステレオタイプな文化論に疑義を呈して多様性を主張している人が、「〇〇だからアメリカ人は嫌い」というようなイメージ先行で、他国に対して恐ろしく単純化した固定観念を抱く傾向は、割と根深くあるような気もする。ステレオタイプ俗流日本人論批判が、しばしば国内向けの閉じた議論に陥っていくように見えるのも、なんだか残念だなという思いも持つ。

 なぜこんなにも日本文化論や日本人論が好まれるか。という点に踏み込んだ本もある。

「日本人論」再考 (講談社学術文庫)

「日本人論」再考 (講談社学術文庫)

 個人的には、歴史的にも日本文化の特徴というのを一つには定めがたいことを見極めた上で、時代ごとに異なったタイプの日本文化論が続々と生まれてくる背景は何なのか、時代背景を踏まえつつ思想史的に捉えてみて、上手な付き合い方を考えるということを、戦後は青木保の『「日本文化論」の変容』なども紹介しながらやってみたのだが、うまくいったかどうか。

 


各論―授業で取り上げた日本文化についての本

 授業ではこんな本を取り上げた。

 明治期、急激な西洋化に反対する意味で日本文化論の嚆矢となった著作は、明治20年代の志賀重昂三宅雪嶺らの国粋保存主義の運動のなかで生み出された。明治時代にはその後、新渡戸稲造内村鑑三のようなキリスト者、あるいは岡倉天心らによって、英文で日本文化を紹介するという試みがなされる。

日本風景論 (岩波文庫)

日本風景論 (岩波文庫)

代表的日本人 (岩波文庫)

代表的日本人 (岩波文庫)

武士道 (岩波文庫 青118-1)

武士道 (岩波文庫 青118-1)

茶の本 (岩波文庫)

茶の本 (岩波文庫)

 明治末期から大正期、さらに昭和戦前にかけては和辻哲郎九鬼周造などの哲学者、谷崎潤一郎のような文学者の間で様々な日本文化が語られる。そこには西洋化によって失われてしまったものを求める、文明批評、近代批判的な要素も少なからず含まれていたといえる。

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

風土―人間学的考察 (岩波文庫)

風土―人間学的考察 (岩波文庫)

江戸芸術論 (岩波文庫)

江戸芸術論 (岩波文庫)

陰翳礼讃 (中公文庫)

陰翳礼讃 (中公文庫)

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)

近代の超克 (冨山房百科文庫 23)

近代の超克 (冨山房百科文庫 23)

日本イデオロギー論 (岩波文庫 青 142-1)

日本イデオロギー論 (岩波文庫 青 142-1)

 戦後は、青木保『「日本文化論」の変容』で指摘されるように、否定的特殊性の認識、歴史的相対性の認識、肯定的特殊性の認識というように、日本の復興と経済成長の度合いに応じて、特殊性がプラスの要素に見られたり、マイナスの要素に見られたりするということが起こった。

 そして1970年代以降、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』をはじめとして、大量の日本文化論が生み出されていくことになる。

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

堕落論・日本文化私観 他二十二篇 (岩波文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

雑種文化 日本の小さな希望 (講談社文庫 か 16-1)

雑種文化 日本の小さな希望 (講談社文庫 か 16-1)

文明の生態史観 (中公文庫)

文明の生態史観 (中公文庫)

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

「甘え」の構造 [増補普及版]

「甘え」の構造 [増補普及版]

 1990年代以降、平成になってからは、「日本」とか「文化」の存立の根拠から問い直し、色々な先入見を相対化しようとする議論が相次いで出ている。

 70年代くらいに流行していた議論(日本の集団主義とか終身雇用とか官僚機構の優秀性とかは、今読み返すと、果たしてどのくらい今でも有効か?と首をかしげたくなるものがあるが、それは結局、「日本文化」に限らず、時代の変化から影響を被らざるを得ない文化というものの一貫性を証明するのが難しいということと、合わせて考える必要があるんだろう)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本辺境論 (新潮新書)

日本辺境論 (新潮新書)


取り上げられなかった本

 取り上げたかったのだが、時間的制約で取り上げられなかった本もある。思いついたのでは、このあたり。

文化防衛論 (ちくま文庫)

文化防衛論 (ちくま文庫)

日本的霊性 (岩波文庫)

日本的霊性 (岩波文庫)

古寺巡礼 (岩波文庫)

古寺巡礼 (岩波文庫)

ヨーロッパ文化と日本文化 (岩波文庫)

ヨーロッパ文化と日本文化 (岩波文庫)

つくられた桂離宮神話 (講談社学術文庫)

つくられた桂離宮神話 (講談社学術文庫)

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

また新たな切り口で説明できないか、引き続き色々考えてみたい(2018/8/6追記)。