図書館を辞めて大学教員になって2年目になりました。また私事でも色々ございました。そんななかで読んで考えさせられたもの、印象に残ったものなどをランダムに挙げていきます。お送りいただいたものでご紹介できないものもありますが、ご容赦ください。
漫画なのですが。今年ハマったものの筆頭は鬼滅の刃だと思います。大正時代を舞台にした鬼退治の剣戟なのですが、個性的な仲間との共闘、先輩や祖先から代々受け継いできた技や志の継承など、ちょっと往年の聖闘士星矢っぽさもあり、アラフォーも楽しめるような気がします。授業では導入に使いつつ、ちょっと違う大正の実像について知ってもらおうと試みたのですが、学生の食いつきが違いました。凄い人気なのを感じます。
あと漫画としてはこちらの昭和天皇物語も。原敬か本当になんともいえない役で出てきます。学生に貸しました。
図書館史関係でも色々あった一年でした。
まずは新藤さんのこちらの本が。あまり類書がないことを思うと意欲的な作品だと思うのですが、ちょっと現在の図書館サービスに引きつけ過ぎなのは気になりました。現代的な観点が大事なのは異論ないのですが、図書館業界の特殊用語を歴史上のものから現代に起きかえるより、わかりやすく説明するほうが生産的なのかな、と思いますす。あと図書館史の図式は何と言っても西洋の図書館発達史がモデルなので、それとの対比抜きで固有の「一国図書館史」は今日描きうるのだろうか、などとも考えてしまったのでした。
図書館史イヤーといえば、こちらの小説も。帝国図書館を舞台としたものでこれだけのボリュームのあるものはおそらく初かと。エピソードは、業界通の人には周知のものも多そうですが、それ以外の部分の登場人物のやりとりとか素敵でした。
ながく図書館に関わってきた竹内さんの『生きるための図書館』も印象深い本です。これ、「司書の仕事とは、一人ひとりの伸びる芽を、必要に応じてそっと支えることなのだ(p.213)」って言葉に感動してしまって。大学に移ってからも図書館に関わらせてもらっているのですが、忘れずに置こうと思いました。
歴史学関係では、歴史学者がやっていること、暗黙知を対象化して、いわゆる「みえる化」を推進しようといった趣の本がいくつか出揃ったのも今年の特徴だったかもしれません。私は触発されてスライド作ってしまいましたが、卒論の書き方を書いた本書は学生にも色々教えるのに使えそうです。
「なぜ学ぶのか」という問いかけですが、21世紀の『歴史とは何か』との評判に思わず頷いてしまうような、やはりこれも色々考えたい本でした。
このところ職業柄「歴史学的に考えること」の言語化を余儀なくされているのですが、『クレヨンしんちゃん』の「歴史」との向き合い方が大事だという話はこの本から教わって、それでAmazonプライム・ビデオで大人帝国の逆襲をしっかり見てしましました。
與那覇さんの本。世代的に共感できることだらけなのですが、「歴史がおわるまえに」に続く述語を考えること、が読者に投げられた宿題なのだろうと思います。
明治思想史に関しては、恩師と後輩の本が出ました。学生時代から講義で聞いていた話がこうして形になったのをみると本当に影響受けてるんだなあとわかります。いずれも近代日本思想史の著作。長く生き、活動した人物の思想の全体を取り扱うことの難しさを考えさせられました。
影響ということでは国民国家論からの影響も深いわけですが、それともう一度向き合わせてくれた、牧原著作集の刊行からも恩恵を受けました。当時わかっていなかったことが一層クリアになる感じでした。
これは民衆思想史とはなんなのかということとも関わりますよね。
復刊で、このような民権運動家の描き方もあると教えてくれた本。とくにこう原本の史料出典に註を付けていく作業が半端じゃなくて圧倒されました。
こちらは、教育勅語体制の議論の枠組みの強さを相対化さつつ、教育経験という新たな概念でもって日本の教育史をまとめあげていく点に感動を覚えました。
教育に関しては、大学入試改革のあれこれで格差も問題になりました。本書を読み、重たいテーマなのですが、色々考えさせられました。
美術と文学に関しては何をおいても井田さんのこちらが。岩波新書の限界に挑んでる感じでもあり、かろやかな文体の中にこれでもかこれでもかと作品を読み解くための知見が披歴されていて、美術史というのは何て凄い世界なんだと、圧倒されっぱなしでした。
宗教については大谷先生のこちらが。自分の研究とも重なります。大著ですけれども、読みました。高山樗牛の日蓮主義に果たした影響力の大きさを指摘しています。
メディア史については佐藤先生の「流言」。メディア理論の復習もできます。
猪谷さんの。これも良い本で、フィルターバブルの問題や、広告料の話など、とくに一年生たちの基礎ゼミなどで教えている内容ともつながっていて、情報活動の中で知っておくべきことがたくさん書いてあります。
対象とする時代は専門外だけれど、日本史の前近代の新書や文庫でそれまでの認識を改めさせられた本として。 とくにハードボイルド室町時代の文庫化からは大いに刺激されました。
また、文庫に入ったものでいえばこちらも大きなものです。岡先生の著作大量文庫化です。解説もすごいです。明治150年を経て、あらためて日本近代史を捉え直す好機とも言えましょう。
明治150年に続いて近現代史、昭和史の入門書によさそうな新書も相次ぎましたね。改元という一つの時代の区切りが作用しているのでしょうか。
たくさん書いておられる岡本氏の著作のうち、以下から示唆を得ました。日中の思想交流をテーマにする指導学生がいるので、そのうち一緒に読んでみたいとも思います。
タイトルが良いですが、小島氏の日本史本2冊も文庫化しました。日本史を語るということがどういうことなのか。その説明の仕方にも注目しながら、自分だったらどうするか考えたりしています。
文章術と読書をめぐるライフハック的な本も。いくつか見たなかでは以下のものがまあまあ良かった気がします。
あと最後に、ちょっとびっくりしたのはこちら。授業で明治の終焉と乃木のことを話したついでに乃木坂の話題に触れたのですが、ファンを自認するライターさんがその歴史をかなり掘り下げて考察していました。