帝国図書館の利用者たち

『メディア史研究』52号(2022年8月)に「帝国図書館の利用者たち」というのを書いた。

 

cir.nii.ac.jp

元々、大正、昭和期の帝国図書館史のことをちゃんと調べられていないなという問題意識から準備したもので、メディア史研究会の例会で発表したネタが元になっている。研究会の席上で貴重なご意見をいただいた皆様に感謝します。

 

大正、昭和期の帝国図書館については、まとまった研究がそれほどなくて、『上野図書館八十年略史』も、明治期の充実に比べると記述はあっさりしている。利用者像についても、大正時代に図書館に通った文学者のエピソードとかは紹介されることもあるけれど、それに埋もれてしまうもっとマニアックな人たちはあまり表に出て来ない。

 

それなので、『帝国図書館年報』の統計と、それから新聞記事と、帝国図書館文書のいくつかを組み合わせて、とくに利用者の観点から、その動向を大づかみに論じてみた。

 

従来の論(先行研究)を批判して新たな説を述べるというものではないので、成果というとおこがましい感じもするのだが、

  • 帝国図書館への偽名入館が可能だったかどうか。

  • 利用者のピーク

  • 婦人閲覧室の利用傾向の推移

  • 入館待ち行列の過酷さ。待ち時間の長さ

  • 関東大震災以後の動向

  • 新聞の受け入れ

  • 利用者の懇談会のようなもの

について判明したことを書けたのがよかった。立身出世を夢見て、忍耐強く本を読もうという人が通う図書館だったのであるが、それが昭和期になると少し変わっていくさまも見て取れた。

調べていて、これは凄いな…と思ったのは二・二六事件の日も上野には普通に利用者がいて、戒厳令が敷かれて決起した者が投降しはじめる二十九日だけは利用者が少なくなっているが、二十八日まではそんなに影響を受けたとは思えない推移をしている、ということである。こういう史料に出会えると色々考える。

帝国図書館月報 昭和11年2月

断片的な話になってしまったが、さらに歴史の中に帝国図書館を位置づけるよう努力していきたい。