オンライン授業(ブログ講義)事例

  • この記事は、オンライン授業の事例紹介です。
  • 2020年度春学期 城西国際大国際人文学部の「歴史・文化の視点」の授業のうち1回分を、「思想史研究の事例―もの言う読者たち―」と題して行った回の一部改変です。
  • 改変を加えた個所は授業出席のフォーム(Googleformを利用しました)や連絡事項、授業外で使用するのが微妙と思われる図版などですが、内容についてはおおむねこんな感じです。
  • なお、講義内容は以下の図書掲載の拙稿「読者―「誌友交際」の思想世界」に基づいています。

 

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

  • 発売日: 2018/11/14
  • メディア: 単行本
 

 

 (以下、本文)

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オンライン授業でちょっと困った話―ゼミ編

前回の続きです。前回の記事はこちら。

negadaikon.hatenablog.com

 ブログ講義の一方で、あんまりうまくいかなかった気がするゼミの記録です。同時双方向型でテレビ会議を使って実施しました。

 どの辺を改善していくべきか、まとめてみたいと思います。

 

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かわすみさんによる写真ACからの写真

進め方の概要

 ゼミでは文献要約の発表を、担当者を決めて順番に行ってもらいました。基本は各回の1人発表→質疑応答→まとめ という流れです。

 ゼミの連絡はSlackを使用していました。

 資料(レジュメ)の共有はSlackで事前に送付してもらい、また画面共有は教員の手元で行なうか、発表者に操作してもらったんですが、そもそもWordの縦長のドキュメント自体が見づらいようでした。PowerPointスライドならいいのかもしれませんが、日本史の研究発表でPowerPointを使ったことがないので、私もどう作ればよいかうまく指導できませんでした。

 

  また、同時双方向の授業で、強制的にカメラをオンにしろということに私の中でどうしても心理的な抵抗感がありました。顔出したくないっていう学生もいましたし(画面の向こうでおやつ食べたりさぼってると困るんですが)。

 最低限のルールで、「発言者だけは顔表示をオンにするように」としたのですが、どんな顔でみんなが聞いているか見えないなかで、議論を活発化させることは、残念ながらできませんでした(家のネット環境が悪すぎて、コンビニのイートイン席で飛んでいるWi-fiをつかまえに行った話も本当にあったと聞いています。)

 うまくやっている方がどういう形で学生との信頼関係を構築しているか、私も知りたいです。

 

図書館が使えないなかで

 毎年前期は先行研究の文献要約をやることを課題としているのですが、勢い大学の図書館が使えなくなると、みんなネット情報だけでなんとかまとめようとします。当初、まあそれはしょうがないかなと思っていたのですが、そこで見えてきた、ちょっと大きめな問題点として、以下のことに気が付きました。

 

 もちろん、一概には言えないと思うのですが、ネットの無料情報だけで議論を構築した学生の発表は、共通してどうも議論の水準が古いということが気になったのでした。

 古いというのは、自分が大学に入ってから勉強したこと。90年代後半から2000年代以降に話題になったテーマが全然見えてこないというような意味であります。それ、最近研究あるんじゃないの?みたいなことです。 

 

 私はゼミの初回や第二回めなどで、テキストの要約なので、出てきてわからない単語は調べるようにということは話しておきました。また、無料のコトバンクの辞書の利用についても一通り教えています。

 あとはこのページを紹介したりとか。

negadaikon.jp

 

  今回、テキストに指定して読んだ本は岩波の『日本の近現代史をどう見るか』でした。たまたま1990年代以降の歴史学界で盛んに議論された国民国家論、総力戦体制論を総括するような日本近現代史の入門書だったというのが大きいかもしれませんが、例えば総力戦体制論という単語が出てくると、レジュメにはコトバンクで『世界大百科事典』の「総力戦」の項目の説明が引用されている。でもそれは総力戦の説明であって、総力戦体制論の説明ではないわけです。国民国家論についても似たようなリアクションでした。

 ジャパンナレッジですら「国民国家論」の検索結果はありませんって出ますからね。

 

 ということは、1990年代以降の学界で議論されてきたことがざっくり抜けていることになり、30年分の研究蓄積が全然反映された議論になってこない、ということになります。

  この本に書いている成田龍一氏の区分に従うとすれば、「戦後歴史学―民衆史―現代歴史学」の三区分のうちの、現代歴史学の部分の評価がそのまま消えている、ということでしょう。 学生は学生で、制約のなかで頑張ってくれたとは思っているのですが、そのことを話したうえで、以下の本も読んでほしいと伝えました。 

 

 私自身、これは気づいたときちょっと衝撃で、「いや、ネットで調べてるんだから新しい情報は手に入っているだろう」とぼんやり思っていたので、ちょっとぶん殴られたような気持ちになりました。文献と文献、学説と学説、何が新しくて何が古いのか、ネットの検索結果だと情報の関連性だけでフラットに表示されてしまいます。全部比較する努力を学生がしてくれればいいですが、急いでいたら、時間がなかったら、とりあえず上のほうにあるやつで済ませるでしょう。

 もちろん、それだと困るわけです。研究史の場合、関連性じゃなく、時系列でマッピングする能力が、情報を読む側にあらかじめそこそこ備わっていないと、学問的に有意義な議論を組み立てることが、ほとんどできなくなってしまいます。

 

 これは、私が学生だったころは、図書館のOPACもカタかったし、だいたいタイトル順か時系列順に並び替えて表示させるくらいしかできなかったので気にならなかったのですが、むしろデータがリッチになればなるほど、コツとして知ってないと情報に振り回されてしまう。私のときより今の学生のほうがたぶん大変なんです。 

  

 だからどういうサポートが有効かを考えるしかないのですが、適宜参考図書を教員側が適宜シェアしていくしかないんでしょうか。

  例えばこれとか

戦後歴史学用語辞典

戦後歴史学用語辞典

  • 発売日: 2012/07/09
  • メディア: 単行本
 

 

 これとか(自分も書いているのでなんですが、大変有益です)。 

日本思想史事典

日本思想史事典

  • 発売日: 2020/05/02
  • メディア: 単行本
 

  目次はこちら

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=303592

 

 

 なぜネット上では過去の学説が温存されるのか

 とっくに学界で否定された説が、なぜかネット上だと都合よく編集されたりしながら息を吹き返して使われていたりする例もあるんではないかと思いますが、何でこういうことが起こるのか、少し考えてみました。

 

日本史用語集 改訂版 A・B共用

日本史用語集 改訂版 A・B共用

  • 発売日: 2018/12/15
  • メディア: 単行本
 

  仮に、ネット上の研究水準が30年前だとすると、まず高校までの日本史教科書の内容と親和的なことが予想されます。だからごく普通に高校の日本史選択者に気づかれない。

 明治20年代の北村透谷や『文学界』グループ、30年代の与謝野晶子とかを、とりあえず一括りにして「ロマン主義」と評価して済ませる近代文学や思想史の研究者はもういないと思いますが、2014年に出た山川の『日本史用語集』だと全ての日本史Bの教科書に載っている重要語句になっている。新しい説はよほど決定的なのものでなければ評価として定まっておらず、教科書に入ってこない、というのがあると思います。

 

 無料の論文だってあるんだから、それを読めばどうにかなりそうなものではないかとはいえます。ただ研究史の流れが理解できていないとそれも難しいように思います。

 一応、私の担当授業のなかで、史学史の話もすることはあるのですが、勤務先は史学科ではないので、カリキュラム上、その授業を取らなくても私のゼミに参加することは可能です。その場合の専門性って何かということにはなるのですが…そもそもキーワードとして認識できていなければ論文を探すこともできないわけで、結果、総じて研究史全体への目配り発表が散見されました。

 

 こうなると発表者の報告後、私が史学史や研究動向についてまとめたり補足したりしているうちに時間が過ぎてしまい、学生同士が議論し合うのとは何かちょっと遠い雰囲気になってしまいました。

 むろん、授業を仕切る私の力量不足は否めないのですが、もうちょっと根深い背景として、ネット上の人文系の知識が新しくならないということがあるように思いました。

 

大学1年生の君が、はじめてレポートを書くまで。

大学1年生の君が、はじめてレポートを書くまで。

  • 作者:川崎昌平
  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: 単行本
 

  今年出た川崎昌平『大学1年生の君が、はじめてレポートを書くまで』(ミネルヴァ書房)という本のなかでは、インターネットでは今のことがよくわかる反面、弱点として「過去の言葉や思考」があまりカバーされていないという点があげられています(34ページ)。だから図書館で、過去から現代へ、どういう風に議論が発展してきたかを調べることが大事という話につながっていくのですが、いろんなサイトが立ち上げられるなかで、新しい情報なのか古い情報なのか、初見でわかりにくいというも問題もあるのではないかと思います。

 

 また、最近出た浜田久美子『日本史を学ぶための図書館活用術』(吉川弘文館)に、印象的な話があります。それは、2010年からジャパンナレッジで参照可能となった『国史大辞典』より、紙で出ている2009年刊行の『対外関係史辞典』のほうが、記述が新しいものがあるということです・もっとも『国史大辞典』の著者が故人となっている場合、国史チルドレンである『対外関係史辞典』でも、項目をそのまま継承して改訂されていないものがあることにも著者は注意を促していますが。辞書を引く側が、これはいつ頃の記述だろうかと、たえず意識する必要があるということだと思います。

 

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 コトバンク収録の辞典が改訂されているのかどうか、完全に把握できていませんが、『日本大百科全書』や、『世界大百科事典』が、CD-ROM版が出されたときのテキスト化したデータの流用ということであれば、更新されているものがあるとしても、1980年代か新しくても90年代の情報ということになるでしょう。参考文献で新しいものが増えているかどうか。この20年分の研究は、辞書だけだとわからないことになってしまう。もちろんコトバンクには、『知恵蔵』のほか、順次改訂が加えられているコンテンツも入っているようですが。歴史学上の概念などはどうして弱いように思えます。

 

 Wikipediaの記事の改定も含め、個々人で努力している研究者がいることはもちろん承知しておりますし、大学図書館なども努力して所属機関の紀要などを精力的に電子化していることも知っていますが、Wikipediaの項目でもコトバンクのみに依拠した項目がないわけではありません。

 最新の知識が辞書の形で売り物になっている以上(そして図書館で購入されたりする以上)、図書館も使わずにネットだけで仕入れられる知識はどうしても「型落ち」した古いものに寄ってしまうという現実は見据えないといけないように思えてきました。 

 情報はタダではない。情報を検索しているつもりが、いつのまにか検索させられている。ということに注意を促すのには、猪谷さんの本でも指摘がありましたね。

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

 

 

 

 そのことに気づいた日、学生向けにSlackに次のように書きました。

「今日改めて思ったことは、無料のネットの辞典は、便利なんだけど、下手をすると2,30年前の紙の辞書のデータをそのまま使っていて、更新されていないんですね。Wikipediaも、専門家が紙とネット両方を使って書いていればいいけれど、ネットだけで調べて情報を更新していると、むしろ研究史では批判されつつある30年前くらいの学説が温存されてしまう。発表も同じですね。図書館が使えない中でどうやって準備するのがいいのか、難しいなと思いました。本も買ってほしいけど…(中略)ネットで調べた後、その根拠は何か、何年ごろの議論なのかを確認する癖は付けたいですね。」 

 

 

 我々がネット上で色々な資源が検索できるように努力すべきなのはその通りだとして、しかしながら今の大学生の在学中に劇的に改善するということはないと思われます。また、すべてネットで調べられるときに、どのくらい学生の調べることへのモチベーションは高まるのか。図書館が閉まっているなかで考えると、何が正解かよくわからなくなってきたところがあります。Twitterにも書いたのですが、今の偽らざる心境です。

 

 どうするか?

 一人ひとり指名して全員にコメントを求めるということもできたかなと反省しています。毎回、発言してくれる学生がいて、それはそれで助かったのですが、特定の人に偏りがちではありました。

 ネット上の著作権を気にしなくていいということなら、自分の過去の論文を順番に批判的に読んでもらうということをするということはできたかもしれません。まあその場合、学生の知識の範囲に偏りが出てしまい、また違う意味で困る可能性があるのですが。

 あとは共通の資料を全員に予習してきてもらい、教員側で資料を画面共有して、学生を順番に指名して正しく読めるか読み上げてもらい、その解釈を問うとか、そういった使い方ならもう少しどうにかなったかもしれないなと思いました。

 そのほか、とにかく学生に新書など一般向けの研究成果の新しいところを少しでも多く読んでもらうようにすることでしょうか。

 

 非常に悩んでおります。

オンライン授業(オンデマンド型)をやってみた話―講義編

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ぐっとぴさんによる写真ACからの写真

 オンライン授業の実践について、やったことの記録を備忘のために書き残します。この教育効果については、半期だけでどれだけの成果が出たかは議論しにくいとは思うので、その評価は置いておきます。

 

 いわゆるオンライン授業には、①テレビ会議を使った同時双方向型というのと、②授業資料をダウンロードして期限までに課題に取り組むオンデマンド型というのと、2種類があります。

 私は講義系科目は全部オンデマンド方式で実施しました。

 最初は昨年度の授業で使用したプリントとPowerPointのスライドをPDFにして大学のLMSにアップしようかとか、スライドに音声を吹き込んで動画化し、個人で取得したYoutubeアカウントにアップしようかとか、色々と考えたのですが、スマホで受講する学生が通信制限が来たときに、それでも重いのではないか?と考えて、家族と話しているうちに閲覧にパスワードがかけられるブログ形式がよさそうだという結論にいたり、この方式を採用しました。

 URLも検索除けしており、知らない人は閲覧ができないようにしています。

 

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/09/10/1409011_6.pdf

 オンデマンド授業は、一応要件がいくつかあって、上のリンク(PDF)によると 

  1. 当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかに インターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うことが必要
  2. 当該授業に関する学生の意見交換の機会の確保が必要

 

となっていました。自宅で受ける学生に課題を投げっぱなしにするなという趣旨だと思います。

 1については、出席をGoogleフォームで取るときに合わせて質問を募集し、集計後可及的速やかに匿名でブログ上に回答を乗せることで解決しました。

 2は、大学のHPに掲示板を作るとか、LMSとかにコメントができるようになっていれば十分なのだそうですが、授業連絡用でLINEオープンチャットを作り意見交換の機会を確保しました(確保しただけであんまり機能しなかったのと、ちょっとそのほかにもデメリットはあったので、後述します)

 

 こんなブログ授業。学生も、最初は、なんじゃこりゃと思ったみたいなんですが、終盤になると意外に好評だったので、秋学期もオンラインで授業をする方の参考にもしなるのであれば幸いです。

 

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ブログ画面(サンプル)

 

ブログ授業・概要

  • ブログは、使い慣れているのではてなブログを利用しました。
  • 1科目につき1つブログを作成しました。
  • 授業なので広告を入れたくないなと思い、有償版にアップグレードして使いました。
  • そもそもリンクを知らなければブログにたどり着けないのですが、更に、ブログの閲覧にはパスワードを設定しました。このパスワードはLMSを通じて学生に周知しました。念のため学生にも第三者への配布を禁じる指示を出したので、機密性は保持できたかと思っています。
  • オンデマンドの場合、授業資料は授業開始48時間前までに余裕をもって配信するように大学から指示があったので、前々日の午前0時の配信を基本にしました。火曜授業の場合は、日曜になったら見られる状態にしておくということです。
  • ブログは、前年度の授業プリントをベースにして、講義録を文字起こしする形にしました。
  • できるだけ写真や図版、参考となるサイトへのリンクを盛り込みました。出所が確かなものは(著作権法に抵触していないものを確認して)Youtubeの動画も入れました。昨年度作成したPowerPointスライドがある科目は、スライドをJpeg形式で出力し、要点を書きだしたスライドを文章中に図版として挿入することで、授業の実況中継をしつつ板書も再現するような見え方になったみたいでした。
  • 授業プリントはPDF化して、LMSを通じて学生に配信しました。
  • 毎回、出席確認用にGoogleフォームを作成して、記事の末尾にリンクを貼りました。氏名、学籍番号、所属などを入れてもらうほかに、出席を確認するための最低限の小テスト(4択クイズ程度)を付しました。長文を「読む」こと自体を課題としてとらえました。期末課題も出すので、講義中の課題は極力少なくすることを方針にしました。忙しければ読み飛ばす人が出てもやむを得ないが、その人は期末でしんどくなるだろうという考え方です。

 

ブログ授業・良かった点

  • 資料の提示のしやすさ。普段の対面授業で使いにくいウェブコンテンツ、動画へのリンクなどがふんだんに貼れました(通信量の負担はあるので、参考資料として位置づけ、見たい人だけ見ればいいということにしていました)。でも文章の途中に動画があると気分転換になったようです。あと、CiNiiなどでPDFがある論文へのリンクを貼ったりとか、資料を見せるときに国立国会図書館デジタルコレクションへのリンクを貼るとか、対面だとあとで読んでおいてね。としか言えないところをもう少しフォローできる点では魅力を感じました。
  • 普段耳で聞いていると何ていったかわからなくて素通りしてしまう単語が、繰り返し読むことでちょっと意味がわかってきた、という感想が複数ありました。板書が出来ない代わりに、目で見て理解が深まるケースはあったようです。
  • 復習しやすいという声は多数もらいました。
  • はてなブログの場合、はてなキーワードの存在が思いのほか威力を発揮しました。専門用語の解説にはコトバンクなどネット辞書へのリンクも示したのですが、それ以外にも、難しい単語の意味にリンクがあって助かった、みたいな感想が散見され、思いがけずよかったことの一つでした。
  • 自分の好きな時間に早く終わらせて、通常の授業時間にほかの科目の課題に充てられて助かった。などペース配分にも貢献したらしいのは良かったです。そうでなくても課題が多そうなので少しでも負担を減らせればと思っていました。
  • 質問のフィードバックがしやすい。答えるのはそこそこ大変ですが、全質問に回答でき、その答えを返せるというのは、「何聞いてもいいんだ」という雰囲気の醸成には役立ったようでした。対面授業の通常の時間内で回答しているとどうしても全部にこたえきれないので、この方式は良かったと思っています。対面に戻った際にも、授業参考ブログとして使えるんじゃないかなと思いました。

 

ブログ授業・残った課題

  • 対面がいいという要望に最後まで答えられなかったのはしんどかったです。長文を読むのが苦手な学生に力を付けてほしいと思ってしたのですが、耳から聞いたほうがよく理解できる子は一定数はいると思われ、この方式が万全ではないとは思います。留学生も、わからないところは適宜コピーして翻訳にかけてくれればよいのですが、どの程度理解できたか、評価が難しいです。
  • 学生の意見交換の場として、ある程度匿名で会話できるLINEオープンチャットは良さそうに思えたのですが、携帯電話の契約などによって入れないという学生からの問い合わせが相次ぎ、本格運用を断念して、LMSで流している情報とほぼ同じお知らせを流す状態になった点は課題を残しました(全員が参加していればよいのですが、チャットに入れる学生と入れない学生で試験などの情報に偏りが出てはまずいため)。格安の携帯電話を契約している者のなかには留学生が多く、一番細かい連絡が必要な人に届けられない難しさを感じた次第です。
  • 準備しんどい。講義録を書き起こすというと簡単そうなのですが、よく言われるように1分間に喋れる文字数が300字として、それを単純に90分に拡大して文字換算すると普通の論文一本を超えます。そんな字数は毎週書けないし、学生も読めないと思ったので、途中途中に参考文献やサイトへのリンクをはさんで、それぞれ参照してもらうことにして、1回あたり平均8000字前後書くことにしました。多い回には1万字も超えていたと思います。それでも最後に終わったときに1科目10万字近くなっていました。

    f:id:negadaikon:20200731092210p:plain

    Wordで下書きを書きました


    3科目分講義を持ったので、30万字書いたことになります。1科目あたり新書1冊分の少なくとも情報量は出せたかと思いますが、毎週綱渡りでした(ただその話は同時に、一部の学生側にはこの担当教員が授業準備をしっかりしている、という風に伝わったようではあります)。
  • コミュニケーション不足。どうしてもメールなどでのやり取りになるけれど、質問してくれる子はまだ対応ができるのですが、そうでない子にどうしたらいいか?というのは悩ましいです。
  • 出席確認用にGoogleフォームから自動返信の拡張機能を使ったのですがG Suiteの有償版にしないと受講者が多い科目では、全員分カバーできないらしく、結局、今日出席届いていますか?という質問対応に追われることになりました。付けないほうがよかったかもしれません。
  • 講義系科目だからできたわけで、いくつか耳にしましたが、演習(ゼミナール)で活発な議論をするとかも私はできませんでしたし、史学科の古文書学とか、オンラインで成立させるのはかなりむずかしいんじゃないかという気はします。授業の性質で合う合わないが凄くあると思いました。

日本史演習系科目の運用とSlack

 タイトルのまんまなのですが、昨年度の終わり頃から、Slackを始めて、学部3年以上の弊ゼミ生は全員登録するように。ということにしております。

 

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 全く予期せずして、今般の新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大の影響によって、新年度の授業が対面式で行えなくなったことで、昨年度末からゼミ生に声掛けしてSlackに登録せよと呼びかけていたことがギリギリ奏功している感じでもあり、また各地で始まっている遠隔授業のなかで、多少なり参考となる事例が提供できるのであればと思ってブログを書いてみます。

 

導入経緯

 

 Slackを使おうと思ったきっかけはいくつかあるのですが、一つは、事務仕事と研究指導のメールを分離しないと後者が埋もれて破綻する、という危機感が強くなったことによるものです。

 

 多くの同業の方に覚えがあると思うのですが、大学教員、メールがいっぱい来ます。期末のレポートを課したときなどには、もう引くほど来ます(自分の責任なのですが、昨年度180人くらいの授業でレポートを課して、いちいち受理の返信をしてたので、終盤ちょっと発狂しそうでした)。

 それで昨年度は大学着任2年目にして初めて修士論文生の指導をしたのですが、そうすると、学生が「序章(まだ直すかも).docx」とか、「第一章途中まで.docx」とか、「第二章修正版20191106.docx」みたいな添付ファイルを直しては直してはいっぱい送ってきますよね。それにこちらも返しているだけでメールがたまっていく。

 しかもメールなので、たまに件名振り直さないといけないかとか、宛名も省略すると何だか気持ち悪いとか、だけどいちいち書くのがめんどくさくてストレス、とか、そういうのも重なってきました。

 さらに、その間、それと関係なく来る返信しなければいけないメールもいっぱいきますよね。これはさすがにちょっとヤバいかもしれないな、と思ったのでした。

 

 前職で働いてたときは、受信トレイをTodoリストに見立てて、来た順にやっつけて、返信が終わったら予め作ってあったフォルダに移し替えて結了。というノリで処理できてたんですけど、大学に来てから、当たり前ですけどまず授業に行かなければならない、授業の準備もしなければならない、出欠も入力しないといけない、さらにその合間の時間に学生が相談に来る、ということで、まあそれでももっと忙しい先生はいらっしゃるのですけれども、デスクでメール処理可能な時間がガシガシ削られて行って、同じやり方ではどうも無理だなと気づき始めたこともあります。

 

 去年度の院生は頑張ってくれて、どうにか提出まで漕ぎつけました。私が主査を務めた指導院生は1人だったので何とかなったのですが、今年度は、昨年度3年ゼミで入ってきた学部の学生が卒論を書くことになる。ちょっとどう考えても同じやり方では破綻が見え透いている。

 なので、修論が終わるあたりから、院生と、メール以外の手段で連絡を取り合おう。かつ、ファイルを交換してもストレスにならないものがよい。と相談して、Slackの導入に至りました。

 友人にはbacklogもいいぞと言ってくれる人がいたのですが(ありがとうささくれ)、弊ゼミの特徴として、留学生が多くて、中国でもとりあえず動くっぽい。ということが確認できるツールにしたい、ということでslackに落ち着きました。学生とのコミュニケーションには、LINEとあとWechatも併用しておりまして、その辺も一元化しておきたいというのがありました。

 

 なお、導入にあたっていくつかの記事を参考にしました。

 2件目の文系ゼミで~に書いてあることは、自分のところでは当てはまらないものもあるのですが、非常に参考になりました。別に理系じゃなくても行けるんだなということと、あと本の貸し出しなどのチャンネルを作っておくのは非常に良いなということを学びました。

 あと、本を読みました。これはちょっと古い情報かもしれないのですが、参考になりました。

 こっちは導入し始めてから出た本で、目次だけしか拾い読みしていませんが、何か良さそうですね。

「明日からSlackを使って」と言われたら読む本

「明日からSlackを使って」と言われたら読む本

  • 作者:向井領治
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

運用

 

 一応3か月はやってみたというところです。メールの形式にとらわれないで情報だけ投げられるので、学生にこれ読んでおいてね。という文献リストをNDLオンラインからリンクを貼りつけたり、リサーチナビの「調べ方案内」を貼ってここを見ろ、と指示したり。

 チャンネルに貼って置けば、主に一人に向けて発した情報も、他の学生が参照して「へえそんなのあるのか」と、うっすら理解できる。そういう機会が結構大事なんじゃないかというのが一つありました。

 

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使っているslackの画面例

 

 今、ざっくり以下のようなチャンネルを設けております。

  • #general(使用のガイドライン、大学からの重要な通知等掲示用)
  • #random(雑談用)
  • #mailのひな形(学生に送る用)
  • #ゼミ連絡(学部・大学院等個別に)
  • #研究室図書の貸出
  • #就職関係情報(大学からもメールなどでお知らせがくるのですが、学生周知のためにここに貼り付ける)
  • #文献情報(読んだ本で面白かったのを)
  • #論文指導(学部・大学院別)
  • #調べ方のtips(データベース紹介など)
  • #ニュース
  • #保存庫(自分の論文のPDFを置いておいて学生に読ませる)

 

 増やし過ぎかなとも思ったのですが、こんなもののような気もします。無料版なので1万件までですが、あとから入ってきた人が過去の記事を遡って読めるのもいいと思いました。貼った情報が無駄にならない。

  まだやったことないですけど、日本史だったらみんなで翻刻的な作り方というか、史料を挙げておいて、それについてみんなでディスカッションしたり読みを言い当てたりするの、できそうに思います。

 

課題

 課題をあげるとすれば、学生の個別相談がDMで来ていて、なかなかゼミ全体の議論やrandomの会話が盛り上がらないので、担当教員からのお知らせ掲示板化していること。でしょうか。

 あと良くも悪くもLINEなどとは違って既読がつかないので「ちゃんと読んだ?」と思うことはあります。あえてそれを問わない緩さがいいツールなのは理解しているのですが。

 

 今年度はゼミ開始前に、メンバーの自己紹介を一言ずつ、ゼミ用のスレッドに書いてもらって相互に理解を深めました。

 まだ活発な交流が生まれているとは形容しがたい状態なのですが、今後テレビ会議で演習をするのなら、律儀に大学のLMSにリンクを貼るより、slack上にリンクを貼って運用したほうが楽だし、レジュメなど、事前にメンバーに共有するためにslackに送っておけ、と出来そうなので、その点はこれからかなという気がします。

 他の有効活用事例があったら参考にしたいので教えてください。

2019年に出た本で印象深かったもの

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図書館を辞めて大学教員になって2年目になりました。また私事でも色々ございました。そんななかで読んで考えさせられたもの、印象に残ったものなどをランダムに挙げていきます。お送りいただいたものでご紹介できないものもありますが、ご容赦ください。

 

 

漫画なのですが。今年ハマったものの筆頭は鬼滅の刃だと思います。大正時代を舞台にした鬼退治の剣戟なのですが、個性的な仲間との共闘、先輩や祖先から代々受け継いできた技や志の継承など、ちょっと往年の聖闘士星矢っぽさもあり、アラフォーも楽しめるような気がします。授業では導入に使いつつ、ちょっと違う大正の実像について知ってもらおうと試みたのですが、学生の食いつきが違いました。凄い人気なのを感じます。

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 あと漫画としてはこちらの昭和天皇物語も。原敬か本当になんともいえない役で出てきます。学生に貸しました。

昭和天皇物語 (5) (ビッグコミックス)

昭和天皇物語 (5) (ビッグコミックス)

 

 

図書館史関係でも色々あった一年でした。

まずは新藤さんのこちらの本が。あまり類書がないことを思うと意欲的な作品だと思うのですが、ちょっと現在の図書館サービスに引きつけ過ぎなのは気になりました。現代的な観点が大事なのは異論ないのですが、図書館業界の特殊用語を歴史上のものから現代に起きかえるより、わかりやすく説明するほうが生産的なのかな、と思いますす。あと図書館史の図式は何と言っても西洋の図書館発達史がモデルなので、それとの対比抜きで固有の「一国図書館史」は今日描きうるのだろうか、などとも考えてしまったのでした。

図書館の日本史 (ライブラリーぶっくす)

図書館の日本史 (ライブラリーぶっくす)

  • 作者:新藤透
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 図書館史イヤーといえば、こちらの小説も。帝国図書館を舞台としたものでこれだけのボリュームのあるものはおそらく初かと。エピソードは、業界通の人には周知のものも多そうですが、それ以外の部分の登場人物のやりとりとか素敵でした。

夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

 

 

ながく図書館に関わってきた竹内さんの『生きるための図書館』も印象深い本です。これ、「司書の仕事とは、一人ひとりの伸びる芽を、必要に応じてそっと支えることなのだ(p.213)」って言葉に感動してしまって。大学に移ってからも図書館に関わらせてもらっているのですが、忘れずに置こうと思いました。

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

 

 

 

歴史学関係では、歴史学者がやっていること、暗黙知を対象化して、いわゆる「みえる化」を推進しようといった趣の本がいくつか出揃ったのも今年の特徴だったかもしれません。私は触発されてスライド作ってしまいましたが、卒論の書き方を書いた本書は学生にも色々教えるのに使えそうです。

歴史学で卒業論文を書くために

歴史学で卒業論文を書くために

 

 

「なぜ学ぶのか」という問いかけですが、21世紀の『歴史とは何か』との評判に思わず頷いてしまうような、やはりこれも色々考えたい本でした。

なぜ歴史を学ぶのか

なぜ歴史を学ぶのか

 

 

このところ職業柄「歴史学的に考えること」の言語化を余儀なくされているのですが、『クレヨンしんちゃん』の「歴史」との向き合い方が大事だという話はこの本から教わって、それでAmazonプライム・ビデオで大人帝国の逆襲をしっかり見てしましました。

歴史的に考えるとはどういうことか

歴史的に考えるとはどういうことか

 

 

 與那覇さんの本。世代的に共感できることだらけなのですが、「歴史がおわるまえに」に続く述語を考えること、が読者に投げられた宿題なのだろうと思います。

歴史がおわるまえに

歴史がおわるまえに

  • 作者:與那覇 潤
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/09/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

明治思想史に関しては、恩師と後輩の本が出ました。学生時代から講義で聞いていた話がこうして形になったのをみると本当に影響受けてるんだなあとわかります。いずれも近代日本思想史の著作。長く生き、活動した人物の思想の全体を取り扱うことの難しさを考えさせられました。

三宅雪嶺 (人物叢書)

三宅雪嶺 (人物叢書)

 
<優勝劣敗>と明治国家 加藤弘之の社会進化論

<優勝劣敗>と明治国家 加藤弘之の社会進化論

 

 

 

影響ということでは国民国家論からの影響も深いわけですが、それともう一度向き合わせてくれた、牧原著作集の刊行からも恩恵を受けました。当時わかっていなかったことが一層クリアになる感じでした。

これは民衆思想史とはなんなのかということとも関わりますよね。

牧原憲夫著作選集 上巻: 明治期の民権と民衆

牧原憲夫著作選集 上巻: 明治期の民権と民衆

  • 作者:牧原 憲夫
  • 出版社/メーカー: 有志舎
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 
牧原憲夫著作選集 下巻: 近代日本の文明化と国民化

牧原憲夫著作選集 下巻: 近代日本の文明化と国民化

  • 作者:牧原 憲夫
  • 出版社/メーカー: 有志舎
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 

 

復刊で、このような民権運動家の描き方もあると教えてくれた本。とくにこう原本の史料出典に註を付けていく作業が半端じゃなくて圧倒されました。

花の妹 岸田俊子伝: 女性民権運動の先駆者 (岩波現代文庫)

花の妹 岸田俊子伝: 女性民権運動の先駆者 (岩波現代文庫)

 

 

こちらは、教育勅語体制の議論の枠組みの強さを相対化さつつ、教育経験という新たな概念でもって日本の教育史をまとめあげていく点に感動を覚えました。

増補版 民衆の教育経験: 戦前・戦中の子どもたち (岩波現代文庫)

増補版 民衆の教育経験: 戦前・戦中の子どもたち (岩波現代文庫)

 

 

教育に関しては、大学入試改革のあれこれで格差も問題になりました。本書を読み、重たいテーマなのですが、色々考えさせられました。

教育格差 (ちくま新書)

教育格差 (ちくま新書)

 

 

 

 

 

 

美術と文学に関しては何をおいても井田さんのこちらが。岩波新書の限界に挑んでる感じでもあり、かろやかな文体の中にこれでもかこれでもかと作品を読み解くための知見が披歴されていて、美術史というのは何て凄い世界なんだと、圧倒されっぱなしでした。

酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 (岩波新書)

酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす抒情 (岩波新書)

 

 

 宗教については大谷先生のこちらが。自分の研究とも重なります。大著ですけれども、読みました。高山樗牛日蓮主義に果たした影響力の大きさを指摘しています。

日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

日蓮主義とはなんだったのか 近代日本の思想水脈

 

 

 メディア史については佐藤先生の「流言」。メディア理論の復習もできます。

流言のメディア史 (岩波新書)

流言のメディア史 (岩波新書)

 

 

猪谷さんの。これも良い本で、フィルターバブルの問題や、広告料の話など、とくに一年生たちの基礎ゼミなどで教えている内容ともつながっていて、情報活動の中で知っておくべきことがたくさん書いてあります。

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

 

 

対象とする時代は専門外だけれど、日本史の前近代の新書や文庫でそれまでの認識を改めさせられた本として。 とくにハードボイルド室町時代の文庫化からは大いに刺激されました。

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)

 

 

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

 

 

また、文庫に入ったものでいえばこちらも大きなものです。岡先生の著作大量文庫化です。解説もすごいです。明治150年を経て、あらためて日本近代史を捉え直す好機とも言えましょう。

近代日本の政治家 (岩波文庫)

近代日本の政治家 (岩波文庫)

 
明治政治史 (上) (岩波文庫)

明治政治史 (上) (岩波文庫)

 
明治政治史 (下) (岩波文庫)

明治政治史 (下) (岩波文庫)

 
転換期の大正 (岩波文庫)

転換期の大正 (岩波文庫)

 
山県有朋: 明治日本の象徴 (岩波文庫)

山県有朋: 明治日本の象徴 (岩波文庫)

 

 

 

明治150年に続いて近現代史、昭和史の入門書によさそうな新書も相次ぎましたね。改元という一つの時代の区切りが作用しているのでしょうか。 

 

日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)

日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書)

 
論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

 

 

 

たくさん書いておられる岡本氏の著作のうち、以下から示唆を得ました。日中の思想交流をテーマにする指導学生がいるので、そのうち一緒に読んでみたいとも思います。

増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫)

増補 中国「反日」の源流 (ちくま学芸文庫)

 

 

 タイトルが良いですが、小島氏の日本史本2冊も文庫化しました。日本史を語るということがどういうことなのか。その説明の仕方にも注目しながら、自分だったらどうするか考えたりしています。 

父が子に語る日本史 (ちくま文庫)

父が子に語る日本史 (ちくま文庫)

 

 

 

文章術と読書をめぐるライフハック的な本も。いくつか見たなかでは以下のものがまあまあ良かった気がします。

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

メモの魔力 The Magic of Memos (NewsPicks Book)

 
読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

 
これなら書ける!  大人の文章講座 (ちくま新書)

これなら書ける! 大人の文章講座 (ちくま新書)

 
超速読力 (ちくま新書)

超速読力 (ちくま新書)

 

 

あと最後に、ちょっとびっくりしたのはこちら。授業で明治の終焉と乃木のことを話したついでに乃木坂の話題に触れたのですが、ファンを自認するライターさんがその歴史をかなり掘り下げて考察していました。

 

 

乃木坂ー歴史と謎をめぐる旅

乃木坂ー歴史と謎をめぐる旅

  • 作者:藤城かおる
  • 出版社/メーカー: えにし書房
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: 単行本
 

 

日本史前近代史(古代から近世まで)の勉強に読んだ参考文献まとめ

春学期講義が終わった。今期は日本史の概論で前近代も担当することになったので、参考にした本をまとめておく(ただし全部ではない)。わかりやすい説明の仕方を求めた結果、ついつい新書や概説が中心になってしまって、本格的な研究書には手が出せなかった。来年度以降さらに精度を高めたい。

※なお、言い訳がましくなりますが、筆者の専門は明治以降の日本近代の思想史であって、前近代のほうはこれまでなかなか勉強もできておりませんでした。その点でかなり恥ずかしい内容ですが、あれも読んだ方がいいぞというご意見をいただければ幸いと思い、こちらに掲載いたします。

 

私、毎年こんなこと考えていて、高校日本史の学び直しでもほぼ一年前にこんな記事を書いているので良かったらあわせてご覧ください。

高校日本史の学び直しに向けて今何ができるだろう - みちくさのみち

 

 

授業で扱うので、通史に関しては、できるだけ平易な説明のものを参考にしたく、岩波ジュニア新書の日本の歴史の前近代編をざっと読んだ。 

日本社会の誕生―日本の歴史〈1〉 (岩波ジュニア新書)

日本社会の誕生―日本の歴史〈1〉 (岩波ジュニア新書)

 
飛鳥・奈良時代―日本の歴史〈2〉 (岩波ジュニア新書)

飛鳥・奈良時代―日本の歴史〈2〉 (岩波ジュニア新書)

 
平安時代―日本の歴史〈3〉 (岩波ジュニア新書)

平安時代―日本の歴史〈3〉 (岩波ジュニア新書)

 
武士の時代―日本の歴史〈4〉 (岩波ジュニア新書)

武士の時代―日本の歴史〈4〉 (岩波ジュニア新書)

 
戦国の世―日本の歴史〈5〉 (岩波ジュニア新書)

戦国の世―日本の歴史〈5〉 (岩波ジュニア新書)

 
江戸時代―日本の歴史〈6〉 (岩波ジュニア新書)

江戸時代―日本の歴史〈6〉 (岩波ジュニア新書)

 

岩波新書の「シリーズ日本古代史」「シリーズ日本中世史」「シリーズ日本近世史」も出来たら通読したいところ。

 

 

古代史・中世史に関してはちくま新書の講義シリーズで最近の動向を学んだ。

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)

 
中世史講義 (ちくま新書)

中世史講義 (ちくま新書)

 

…はやく近世史も出てほしい、とちょっと思った。

 

また、元放送大学テキストの『大学の日本史』シリーズも参照した。

大学の日本史 2―教養から考える歴史へ 中世
 
大学の日本史―教養から考える歴史へ〈3〉近世

大学の日本史―教養から考える歴史へ〈3〉近世

 

史料に関しては、『日本史史料』 の各時代のものも。「生類憐みの令」とかはこちらからコピーして授業で配ったりもした。

日本史史料〈3〉近世

日本史史料〈3〉近世

 

史料に関しては現代語訳があるこれも。

もういちど読む 山川日本史史料

もういちど読む 山川日本史史料

 

 

それから、近世史に関しては、吉川弘文館の「日本近世の歴史」シリーズが、とても参考になった。少し復習をするにつけ、近世政治史についてしっかりしたイメージが持てていなかったことがわかり、時代区分の仕方を含めて(例えば綱吉から吉宗までを「養子将軍」とする、田沼意次の時代を「山師の時代」と規定する、など)非常に勉強になった。 

日本近世の歴史〈2〉将軍権力の確立

日本近世の歴史〈2〉将軍権力の確立

 
日本近世の歴史〈3〉綱吉と吉宗

日本近世の歴史〈3〉綱吉と吉宗

 
日本近世の歴史〈4〉田沼時代

日本近世の歴史〈4〉田沼時代

 
日本近世の歴史〈5〉開国前夜の世界

日本近世の歴史〈5〉開国前夜の世界

 
 

 

あと、配布プリントを作る際に図版の多いつぎのものも図書館等で活用させてもらった。

ビジュアル・ワイド 江戸時代館 第2版

ビジュアル・ワイド 江戸時代館 第2版

 
日本全史(ジャパン・クロニック) (クロニック・シリーズ)

日本全史(ジャパン・クロニック) (クロニック・シリーズ)

 

 留学生も多いので、かえって子供向けのほうが解説の日本語がわかりやすくて良いのである。 

その他個々のものについては以下の通り。

原始・古代

新しい研究の成果をどういう風に取り入れて話すか、難しさを感じた。

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

 
天皇の歴史1 神話から歴史へ (講談社学術文庫)

天皇の歴史1 神話から歴史へ (講談社学術文庫)

 

 対外関係史、「東アジア」という視点を打ち出した研究が増えている印象。

古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書)
 
倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)

倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)

 
東アジア仏教史 (岩波新書)

東アジア仏教史 (岩波新書)

  
律令制とはなにか (日本史リブレット)

律令制とはなにか (日本史リブレット)

 
蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)

藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)

 
院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)

院政 天皇と上皇の日本史 (講談社現代新書)

 

 

 

中世

武士の成立論などについて中世史専攻の人に教えてもらいつつ作った。石井進先生の本もたくさんあげてもらったがまだ読めていない。

 

武士の日本史 (岩波新書)

武士の日本史 (岩波新書)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

 
承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

 
中世は社会と法というのがポイントになるんだなと思い、人に教わりながら少しずつ読んだ。
 
徳政令――中世の法と慣習 (岩波新書)

徳政令――中世の法と慣習 (岩波新書)

足利義満 - 公武に君臨した室町将軍 (中公新書)

足利義満 - 公武に君臨した室町将軍 (中公新書)

 

 中世の人の法については、清水氏の本は刺激的だった。

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

 

 刷新が進む信長像についても。

織田信長 (ちくま新書)

織田信長 (ちくま新書)

戦国大名と分国法 (岩波新書)

戦国大名と分国法 (岩波新書)

 
世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

世界の辺境とハードボイルド室町時代 (集英社文庫)

 

 

マンガだけれど、室町時代のことならこれもよかった。

 近世

全集日本の歴史の議論からは色々と示唆を得た。概説は出るたびに読んでおかないと、どんどん置いて行かれるのだなと痛感した。

 

江戸時代の官僚制 (AOKI LIBRARY―日本の歴史 近世)

江戸時代の官僚制 (AOKI LIBRARY―日本の歴史 近世)

 
徳川の国家デザイン (全集 日本の歴史 10)

徳川の国家デザイン (全集 日本の歴史 10)

 
「鎖国」という外交 (全集 日本の歴史 9)

「鎖国」という外交 (全集 日本の歴史 9)

 
鎖国」について話をするついでに「柳川一件」について話したら結構学生も衝撃を受けたようだった。
江戸武士の日常生活 (講談社選書メチエ)

江戸武士の日常生活 (講談社選書メチエ)

 
徳川社会のゆらぎ (全集 日本の歴史 11)

徳川社会のゆらぎ (全集 日本の歴史 11)

 
本居宣長: 近世国学の成立 (読みなおす日本史)

本居宣長: 近世国学の成立 (読みなおす日本史)

 
天皇の歴史6 江戸時代の天皇 (講談社学術文庫)

天皇の歴史6 江戸時代の天皇 (講談社学術文庫)

 
旧事諮問録 上―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-1)

旧事諮問録 上―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-1)

 
旧事諮問録 下―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-2)

旧事諮問録 下―江戸幕府役人の証言 (岩波文庫 青 438-2)

 
新しい江戸時代が見えてくる: 「平和」と「文明化」の265年

新しい江戸時代が見えてくる: 「平和」と「文明化」の265年

 
開国への道 (全集 日本の歴史 12)

開国への道 (全集 日本の歴史 12)

 
松平定信―政治改革に挑んだ老中 (中公新書)

松平定信―政治改革に挑んだ老中 (中公新書)

 

 近世思想についてはほかにも。

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)

江戸の思想史―人物・方法・連環 (中公新書)

 

 

2018年に出た本で印象深かったもの 増補

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2018年は図書館員から大学教員への転職などがあり、また近親者を見送ったり、個人的には大きな変化、別れのあった一年でした。そんななかで読んで考えさせられたもの、印象に残ったものなどをランダムに挙げていきます。お送りいただいたものでご紹介できないものもありますが、ご容赦ください…。

 

オッペケペー節と明治 (文春新書)

オッペケペー節と明治 (文春新書)

 

以前研究会などでも報告を伺っていたもの。明治時代にあって、ある時期に流行りだした歌が、 全国的にあちこちで歌われるようになっていく様を、メディア史的にどう論証できるか?という非常に興味深いテーマ。新聞史料の調査方法など、なるほどと思うテクニックも紹介されており、初学者に参考になるのではないか。永嶺氏は近刊で『リンゴの唄』にも取り組んでおられる。

「リンゴの唄」の真実 戦後初めての流行歌を追う
 

 流行歌のメディア史として。

 

知性は死なない 平成の鬱をこえて

知性は死なない 平成の鬱をこえて

 

復活の書。扱っているテーマは重く、與那覇さんと入れ替わるように大学で教えるようになった今、ここにある問題については、考えながらちっとも解決もしていないのだけれど、おかえりなさい、という気持で本書に接した。

 

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書)

 

大学で教えるようになって考えることが増えたのだけれど、そのなかで接した一冊。大学の勉強って、英語がちょっと苦手だからとか、歴史のうちのある時代だけ弱いからとかサプリのように足りないものを補っていけば、それでよいのかという問いかけは、わたしには刺さっていて、授業しながらよく反芻する。

 

 よい評伝と言うのは断片的な知識を持っている対象について適切な全体像を示してくれるものだと思うけれど、まさにそんな一冊。「黄禍論」演説をぶち、日本の世紀転換期の留学生たちからやたら嫌われていた皇帝が、何でそういう思想に至ったかを解きほぐしてくれている。第一次世界大戦後、あちこちで王室が廃されていくなかで、同じ時代に生きた他の元首との比較も、考えさせられた。

 

日本思想史の名著30 (ちくま新書)

日本思想史の名著30 (ちくま新書)

 

 留学生と接するようになって日本の思想・文化の全体像についてかなり意識が向くようになった。彼ら/彼女らが発するとてもステレオタイプな日本文化イメージに、思想史の研究はどう立ち向かっていけるのか?そういうときに学生に勧めたい本だと思う。

 

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

K-POP 新感覚のメディア (岩波新書)

 

 春から何人もの学生と知り合って話してみてとくに印象的だったのがK-POP人気の高さだった。それで自分でも少し知りたくなって読んだ本。音楽や文化の力が反目を止めるかもしれないことを信じている著者のあとがきに少し胸打たれた。

 

 来年に向けて近代の天皇に関する本の刊行も相次いだ一年だった。

近代天皇制から象徴天皇制へ―「象徴」への道程

近代天皇制から象徴天皇制へ―「象徴」への道程

 著者のお仕事は戦後のさまざまなメディアを駆使したものが多いが、こちらは大正期からの長いスパンで思想史的に捉えようとされていて勉強になる。

 

天皇の近代―明治150年・平成30年

天皇の近代―明治150年・平成30年

  共同研究の成果として、さらに長いスパンから、江戸から天皇の近代を捉えようとしたものが本書。一つ一つの論考の密度が濃くてかんたんにまとめられないが、比較的若い書き手の人まで研究を進められていることに感銘を受けた。

 

武士の日本史 (岩波新書)

武士の日本史 (岩波新書)

武士についてその起源から説き起こすもので、近刊の桃崎氏の新書とも響きあう。

これから、武士のルーツをめぐって学会の大きな論争が起こるかも?などと予想。中世期の戦乱も相変わらず色々な研究がでているようだし。高橋氏の新書では、平氏政権や織豊期も幕府でいいんじゃないの?という指摘には、凝り固まっていた自分の発想を大いにゆさぶられた。

 

前近代の歴史について、さっきの武士の本もだったのだが、自分の常識や思い込みが覆されるような一冊に出会うことが多かった。大胆な通説の見直しが進んでいるということなのだろうが、この本もその一つ。買ったのはタイトルに惹かれたからで、とくに日本と海外との交渉を知りたいからだったのだが、帯の、なぜ日本はスペインに植民地化されなかったのか、の答えはやっぱり衝撃で、マジかよと思ったのだった。ぜひ本書を。 

日本史の関心は近年特に高いと思うのだが、それに答えうる1冊。古代から現代まで、いくつかの論点から歴史の評価を考えるもの。コンパクトにまとめるのは大変だったのではと思うものの、読み応えはとてもある。 

 

 

一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

 まさにルネッサンス。文章がうまくて感服した。テレビに出てた芸人さんを捕まえて無名は失礼だろうけれども、歴史家が無名に近い人物の伝記を描き出すときにどんな挿話を集めるかということを考えたりもしながら読んだのだけれど、とにかく面白かった。

 

授業するようになって、人に本を勧めるということを、図書館員時代と違った形で考え始めた頃に読んだ本。いろんな本との出会い方はある。勧めたけどうまくいかなかった事例から多く学べるようにも思った。

 

 

 レポートの書き方を指導する授業の参考文献として。ふだんの授業では慶應の『アカデミック・スキルズ』を利用し、『レポートの組み立て方』や『論文の教室』なども併用しているのだけれどそれよりもわかりやすいかもしれないと思った。

 

「甲子園」の眺め方: 歴史としての高校野球

「甲子園」の眺め方: 歴史としての高校野球

 

執筆者のお一人、黒岩さんからいただいたもの。高校野球の歴史って史学概論の教材に結構良いのではないか?という編者のコメントが載っているが、まさに。スポーツ用品店からつながっていく「球友交際」をはじめとして、一定以上の期間雑誌などが残っていれば、歴史研究者はこのような切り口からも歴史像を結べるのだぞというお手本を見せられたような気分。植民地における中学校の野球史についても全然知らず、本当に勉強になった。

 

陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)

陸奥宗光-「日本外交の祖」の生涯 (中公新書)

 

 後生畏るべし・・・ときっといろんな人が思ったであろう新書。手堅いしバランスも目配りも聞いている気鋭の若手研究者による希有な人物評伝。外交家だけでない、陸奥宗光という人の政治家としての多彩な側面を明らかにする。裏テーマで、陸奥の弟子である原内閣100年があったのかもしれないなとは終章を読むと思う。史料上、女性名に「子」をつけるのとつけないのは本文の記述ではどちらがよいかなどの細かい指摘に著者のお人柄(なのだろうか)がにじみ出ていて面白い。

 

五日市憲法 (岩波新書)

五日市憲法 (岩波新書)

 

 

 「明治150年」ということで、明治関連の本もたくさん出た。なんとなくそれぞれの持ち場で、お祭り騒ぎに便乗するするのではなく、研究者としての意地をかけて明治史の着実な成果を出そうという研究者が周りに多かったように思うのが、誇らしくもあり、頼もしかった(自分の手柄ではないが)。

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

 

昭和史講義に続く、明治史の入門書。人物編も出て、いよいよ次は大正編なのだろうか?

はじめての明治史 (ちくまプリマー新書)

はじめての明治史 (ちくまプリマー新書)

 

 明治史講義のさらなる入門書。講義形式の平易な語り口で、だけど内容は濃くという新書。意識されているのかわからないが、『それでも日本人は戦争を選んだ』とどこか響きあっている気がする。カバーデザインが「明治」の「明」だって、アマゾンへのリンクを貼って気がついた。

 

江戸東京の明治維新 (岩波新書)

江戸東京の明治維新 (岩波新書)

 

論文などを読んでいるとしばしば鳥肌が立つ史料というのに出会うのだが、本書に登場するかしくさんの儀一件の史料、凄まじくて何も言えなくなってしまった。

「健康で文化的な最低限度の生活」というドラマが流行った2018年に、明治も生きづらかったということを様々な角度から説明した新書。大学の講義を元にされているらしいが、これ以上に平易な松方デフレの説明は寡聞にしてしらず、様々な文体を駆使する著者の技量に驚嘆のほかなかった。あちこちで学生に勧めまくっていた。

 

家(チベ)の歴史を書く (単行本)

家(チベ)の歴史を書く (単行本)

 

 12月に入ってからようやく読んだものだが、強く印象に残った。気鋭の社会学者が在日コリアンである家の歴史を、家族への聞き取り調査をもとに再構成したもの。社会学歴史学との方法論の違いなども序論で展開されているが、語られている内容、それを構成する目線、ときどき、整理しきれない生の会話を読者に伝えてくる文体、こんな書き方があるのかと参考になった。伯父や伯母などたくさんの親類を見送って、「もっと話を聞いておけば良かったかな」と思っていたところでもあり、自分の「家」の歴史は、歴史学の方法でならどのように書き出せるのだろうと、本書を閉じてからずっと考えている。

 

 今年、凄い本がいっぱい出たのではないでしょうか。

 

番外

自分が関わった本として …

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

近代日本の思想をさぐる: 研究のための15の視角

 
現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

 

 

その他、どうしても追加したかったもの

上記のエントリを書き上げた後で読んだ本で、やっぱりこれは2018年の本として書きとどめて置かねばならぬ、と思ったので追記。

 

やや黄色い熱をおびた旅人

やや黄色い熱をおびた旅人

 

超売れっ子作家だった1997年に、黄熱病のワクチンを受けながら世界の紛争地帯を歩いて取材し、出会った人たちの記録。原田氏ならではの視点と文体で綴られる、戦争のなかにいる人々の暮らし。

「戦争」はこんなにも具体的であるのに、「平和」とは何と抽象的なものだろう(p.57)

 

私は原田宗典氏の作品では「すれちがうだけ」が圧倒的に好きなのだけれど、たぶん原田さんは、自分の人生とあんまり関係ないすれ違うだけの人に流れている人生をすれちがった刹那のなかに見つめて考え続けてしまう人なのだと思う。

 

しょうがない人 (集英社文庫)

しょうがない人 (集英社文庫)

 

 

紛争地域を歩いて取材した21年前の原稿の「あとがき」に迷いながら、何かを感じてもらえたらそれでいいという著者の姿に、感銘を受ける。